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YOSAKOIソーラン10周年=第5回=渡会さんのYOSAKOI研究=アイデンティティの拠り所

ニッケイ新聞 2012年7月14日付け

 本紙の過去記事を繰っていると、当地に滞在し八国のYOSAKOIを研究した渡会環さんという日本人女性の名があった。専門的な意見が聞けるかもしれないと思い取材を申し込んだ所、快い了承の返事と共に2本の論文が送られてきた。
 渡会さん(37、愛知)は現在愛知県に住み、同県立大学外国語学部で専任講師を務めている。2度伯国留学経験があり、2003年には日本学術振興会サンパウロ海外連絡研究員として1年間聖市に滞在した。
 研究員として来伯当時、YOSAKOIグループ一心と出会い、「若者たちが自分たちの踊りを創りあげていく過程で、『日本文化』と『ブラジル文化』について真剣に話し合うのを目の当たりにした」と語る。
 「若者たちがYOSAKOIを通じて、真剣に自己のアイデンティティを省察していることや、アイデンティティについて考える人々のことを、躍動感を持って伝えたい」と研究対象をYOSAKOIに変更した。
 一心を始め弓場、SOHO、グルッポ・サンセイ、カストロ連など9団体に対し参与観察とアンケート調査を実施し、YOSAKOIの伝播と変容の過程を分析した。
 彼女の研究により、1996年には北海道移民がもたらしていたこと、聖、パラナの2州を中心に、少なくとも20以上の団体が既に踊りを導入していたことが分かっている。企業研修や国際交流事業で訪日した人や渡伯した日本語教師を介して、あるいは他団体との交流や見聞を通してなど、様々な媒体を通して認知されていった。
 各団体がYOSAKOIを始めた理由は様々だが、渡会さんは全団体に共通する理由の一つとして「早いリズムの音楽に合わせて踊られる傾向の強いこの舞踊が『ブラジルに合う』」とメンバーらが感じていたこと、更に一部の若者はソーラン節という伝統性と現代性が混ざり合う「ハイブリッドな特徴」を、多文化社会である伯国と重ね合わせていたことを挙げている。
 ブラジル人にとって、カーニバルにも共通する軽快さや陽気さ、観客との一体感が味わえる所が親しみやすいと見られ、すでに多くの非日系人がメンバーに加わっている。日系人たちは、多文化主義を体現したかのようなYOSAKOIに「非日系人がいないのは不自然」とすら感じ、非日系人の参加を歓迎した。
 渡会さんは、当地の若者たちは舞踊の創作過程において「ブラジル社会とその社会に生きる彼・彼女ら自身を見つめ直している」と説明する。そしてYOSAKOIを、「単なる舞踊創作を超えた、個人のアイデンティティの拠り所となる新たな身体表現を創造しようとする民衆の試み」と呼んだ。
 若者を巻き込み発展していくYOSAKOIは、彼らのアイデンティティを映す鏡なのかもしれない。

参考文献
「『YOSAKOIソーラン』から『YOSAKOI SORAN』へ—日本の現代的都市祝祭のブラジルへの伝播と変容—」『Encontros Lusofonos』No.8,2006
「日本の『マツリ』を持ち込んだ日系ブラジル人—多文化社会に生きる自己の新たな表現手段として—」『ラテンアメリカ・カリブ研究』No.15, 2008
(つづく、児島阿佐美)

写真=一心のメンバーと渡会環さん(右)

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