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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年7月20日付け

 「日本で生まれたんだから、故郷に帰るのは当たり前でしょう!」。その戦後移住者の帰化人は日本に帰る際、在聖総領事館で一般ブラジル人とまったく同じ扱いを受けてビザを取得した上で、成田空港の入管でぞんざいな扱いを受けたとき、思わずそう怒鳴ったと聞き、考え込んだ。入管職員は「その通り」と一見同意する振りをしながらも「でもここは日本。あなたはブラジル人だから日本の法律に従ってください」と慇懃無礼に言い放ったという▼このような辛い経験を持つ帰化人は実に多い。戦前から日本移民が多い地域に入った戦後移民は特に、ブラジル法上、帰化しないと農地の所有が認められず、泣く泣くそうした人が山ほどいる。移住地では元々9割が日本人所有だった場所もあり、ブラジル法令を遵守して農業をするには、それ以外に選択肢がなかった▼ブラジル人になりたくて帰化したのではなく、この国で日本移民として生活するために仕方なくそうしたに過ぎない。本人にすれば「日本人であることを辞めた」つもりはまったくない。おそらく日本の日本人の多くは、「日本国籍」と「日本人」という言葉を混同している▼帰化人は「ブラジル籍」だが、「日本民族」であることに変わりはないと思う。たとえばユダヤ民族には米国籍もイスラエル国籍もブラジル籍もいる。「○○国籍」=「○○民族」という単純な認識では、複雑怪奇な国際情勢は理解できないだろう▼国籍を越えて民族は団結できるはず。帰化人に対して「ブラジル国籍の日本民族」として中間的な扱いはできないものか。「国籍と民族は別」という観念を日本の人にも理解して欲しいものだ。(深)

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