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「ギュンターの冬」訳出版へ=恐怖政治描くSF小説=パラグァイ 坂本邦雄

ニッケイ新聞 2013年2月14日

 『ギュンターの冬』のスペイン語原題は『El Invierno de Gunter』で、探偵小説と推理小説の混合のような作品だ。著者ファン・マヌエル・マルコス氏が、かつてのストロエスネル独裁政権下での恐怖政治下において、権力の横暴に抗した体験を万華鏡的に記した問題作といわれる。

権力の横暴描く問題作

 著者はスペイン内戦で戦った共和党の亡命者とパラグァイ人女教師を両親として、1950年6月1日に首都アスンシォン市で生まれた。アスンシォン国立総合大学哲学科を主席で卒業し、後にスペインはマドリッドのコンプルテンセ大学と、米国ピッツバーグ大学で哲学及びの博士号を得た他に、エール並びにハーバードの各大学院で政治哲学と大学管理学を専攻した博学者である。

拷問受け、政治亡命へ

 オクラホマ大学及びカリフォルニア大学の教授となり、幾多の検定試験を経て全米本任終身教授の資格を取得した。カンザス(米)、リオ(伯)、マルデルプラタ(亜)、ブエノスアイレス(亜)の各大学の名誉教授に任命された。この他ドイツ、亜国、ボリビア、ブラジル、コロンビア、韓国、コスタリカ、スペイン、米国、フランス、日本、メキシコ及びウルグアイの約50以上の大学に於いて講義や講演を行った。
 マルコス博士は若い頃から多くの文芸・文化活動や著作等に当ったが、パラグァイ民主主義運動に加わり、投獄や拷問の憂き目に遭い、長年の国外政治亡命を経験した。ストロエスネル独裁政権崩壊後にパラグァイに帰国し、1991年にアスンシォン市で国内では一番大きい私立ウニノルテ・北方総合大学を創設し総長に就任、今日に至る。
 それ以前は、青党リベラルより立候補し、国会衆参両院議員に逐次選出され、長年教育、社会、文化の各分野での為に尽くした。同じくメルコスール(南米南部共同市場)の文化議会でパラグァイ人として初めての議長を務めた。

米国、スペイン等で有名

 本書はパラグァイの文芸作品の中では、02年にニューヨーク大学のトレイシー・K・ルイス教授に依り初めて英訳された数少ない文献の一つだ。なお、同著はストロエスネル独裁政権下で厳しい検閲を逃れながら1987年に出版され、同年のブック・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。
 この本は、1989年にスペイン語圏ではノーベル文学賞に匹敵するスペイン国の「セルバンテス文学賞」を受賞したパラグァイの文豪、故アウグスト・ロア・バストスの小説『Yo、 El Supremo(余は至高の終身総統なり)』の次に国際的に有名な著作である。
 本書はこのロア・バストスの作にヒントを得た権力に対する魅惑的な時空間ナレーションなのであって、技巧に凝った構文方法を駆使しており、難読とは言わずも充分な読み応えがある。
 因みに、本書は最初の英訳以外にも、これ迄にも仏語訳、ロシア語訳、セルビア語訳、韓国語訳、ヒンディー語訳など多数に訳されている。

和訳出版も近日中に実現

 1月25日にアスンシォン市のウニノルテ大学のAmbay講堂に於いて、ブラジルクリチーバ市のパラナ連邦大学のダイアネ・ペレイラ・ロドリゲス女史の手になるポ語訳『O Inverno de Gunter』出版披露式が、各界著名人らの多数出席のもとに盛大に行われ、「貴重な文献だ」と称賛するコメントが相次いだ。そこに筆者も招待されて末席を汚した。
 話は筆者の事になるが、実は昨年初にマルコス博士に同書の和訳を仰せ付かったのである。然し、単に翻訳とは云っても、小説ともなればその訳出は文才の素質も求められる大役で、これは大変な次第になったと内心思った。
 とにかく何んとか5カ月程の時間を掛けて仕上げたが、和訳版は東京の上智大学のシミズ・ノリオ教授のアドバイスの許に出版の準備中だと、マルコス博士から聞いている。そして、近い中に出版の実現を見るなれば、筆者の訳者冥利はこれに過ぎたるものはない。

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