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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2013年7月26日

 「生まれて初めてあんな光景を見ました。みんながね、泣きながら盆踊りを踊るんですよ。やっぱり相馬盆唄だって」。県連被災地招聘事業の講演会の中でも、天野和彦さん(福島)の次の話はとても印象的だった。原発事故により「浜通り」と呼ばれる海岸地帯住民は、福島市内の巨大な施設に移転させられ、2500人以上が肩を寄せ合って半年も暮らした▼そこから仮設住宅に移る直前、ある被災男性が「バラバラになる前に、一回でいいから、最後にみんなで相馬盆唄を踊りたい。太鼓を貸してくれ」と天野さんに頼みにきて実現し、冒頭の光景となった。相馬盆唄は浜通り独特の盆踊りだそうだ。そんな話に、会場からはすすり泣く声があちこちから聞こえた。失われた故郷への〃郷愁〃——どこか移民の気持ちと共通する部分がある▼93歳で被災した老婆が「お墓に避難します」との遺言を家族に残して自殺したとの話も衝撃的だった。原子力災害で住めなくなった故郷から避難する家族の足手まといにならないように——という気持ちからだったという。あまりに悲しい逸話だ▼多くの来場者からは「生の体験談は、テレビとはぜんぜん違う」という声が聞かれた。復興の目処が立つまで「被災地を心の片隅に置いておく」ために毎年招聘したらいいのではないか▼ただし、2週間も地元を留守にするのは難しいだろうから、10日以内に短縮し、人数を2人に減らして一人当りの講演時間を長くし、各地で講演してもらったらどうか。ポ語通訳付きであり、一般社会向けにも開催してほしい、とても意義深い講演会だ。今後の日系団体のモデルといって良い事業ではないか。(深)

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