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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2013年8月20日

 東日本大震災復興植樹支援と戦後移住60周年記念のショー「日本人の心の歌」が文協大講堂で開催された18日の夜、NHKで零戦に乗った兵士のドキュメンタリーを見た。「日本人の心の歌」では毎年、数曲の軍歌や戦後の世相を表す歌が選ばれるが、昔の日本を思い起こさせる曲を聴いた直後に見た、爆弾を搭載した零戦で敵艦に体当たりする事を求められた若者の苦悩などを描いたドキュメンタリーに衝撃を覚えた▼最初の特攻隊員として軍神扱いされた兵士の墓標が、終戦直後、「特攻がなければ戦争はもっと早く終わっていたんだ」という市民達の手で抜き去られた様子などは、国策や報道に踊らされた市民の悲哀そのままだ▼終戦当時、2歳8カ月だった次兄は満州からの引揚げ者で満杯のトラックの中で窒息死、髪と爪だけを残して海に沈められたと聞いてきたコラム子には、戦争を美化する気持ちもないし人間が神になるという考え方もない▼だが、戦争中は日本のために命を捨てたともてはやし、銅像を建てるとまで言った人達が、手のひらを返すように墓標を抜き取って行った姿に、人間の浅ましさや身勝手さを見た▼一方、ブラジルでは14日付新聞が、大戦中にイタリア戦線に派遣された最後の空軍兵ルイ・モレイラ・リマ元少佐が13日に死亡と伝えた。同少佐は終戦後、空軍基地戦略指令官になったが、64年の軍事クーデーターに反対して役職を追われ、3度の投獄も経験したという▼時代と共に個人や業績への評価が変わるのは当然かもしれないが、政治の道具となって人の心を煽ったり欺いたりする役だけは負いたくないと改めて思う。(み)

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