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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=1

 プロローグ

 「花嫁移民」―こう言うだけで、「エッ」と誰でもが目を大きく開き、先行く人は振かえって見る。それは特殊な人生を歩いている女性を想像させるに充分な言葉だからであろう。祖国日本のみならず、このブラジルおいても同胞が同じ反応を示すので、私たち花嫁移民は自ら口に出すことはめったない言葉である。
 一九九九年NHK短歌全国大会において

 わが歌に涙のすじのなきことを先の移民と比べられおり

 この一首が特選となり、海外作品賞を受賞し、私は次男の厚意で訪日したが、NHK大ホールで行われた短歌大会の席上、私の歌をとって下さった石田比呂志先生の作者紹介のことば、
 「滝友梨香さんは花嫁移民としてブラジルに渡航した方です」に、その言葉を聞いた有名な女性司会者が振り向いて私を見、瞬間、会場の空気もザラッとしたようなながれを感じた。どうしてそんなに奇異なのか解せないが、それが現実である。
 祖国においてなら、まだ「変に見られても仕方はないか」とあきらめに似た思いもあるが、「花嫁移民」を受け入れた日系コロニアの中でも奇異な目を向けられるのは許せず、ムカッとした思いが湧いてくる。そのために花嫁移民達はこの言葉から逃れるようにして口を結び、よほど親しくなるまで、また同じ花嫁移民と分かり合うまで自らそのことを口にはしない。
 それは渡航した当時も四十年、五十年経た現在も同じである。幸せな家庭を築いた者も、失敗して落ちるべき道へ落ちたというか、少し変わった道を歩いた者も同じ思いだと言える。    
 アメリカ、カナダ、アルゼンチン他一三ケ国へ花嫁移住した他の女性のケースも共通のものがあるだろうと考えるが、私がここで書こうとしているのはブラジルに来た私の同船者と、身近にいる女性たちの事である。
 花嫁移民の母と言われている小南ミヨ子女史設立の「国際女子研修センター」を通して来たある女性は、取材をした私に、
 「花嫁移民で来て五十年過ぎましたが、誰に勧められた訳でもなく自分の意志で来たのよね、そりゃ、いろいろありましたが、今はとても幸せですし、昔のことは綺麗な思い出として、ひとり胸に秘めて逝きたいのよ、だから悪いけど話さないわ」と、返答する方もいた。それを味のある生き方と受け止めても、私は日本移民百年祭を前にして「花嫁移民」と呼ばれる若い女性たちの単身移民の時代があったことを、書き残して置かなくてはならないという思いを止められないのである。

 第一章 花嫁移民の母「小南ミヨ子」

 二〇〇六年四月一日、邦字新聞「ニッケイ」に移住花嫁の母「小南ミヨ子の生涯」という見出しが太字で出た。移住花嫁の母と言われている小南ミヨ子女史の四十九日の法要が、三月二十五日に行われ、その記事だった。掲載された写真を見ると知的な美人であるが、冷たさを感じさせないのは、送り出した花嫁達をわが娘として、私財を投げ打ち最後まで心にかけ世話をしたという底知れぬ優しさがあるからではないだろうか。
 小南ミヨ子女史をいまも先生と慕い、遺影に手を合わせている写真には、六十歳半ばから七十歳ぐらいの女性ばかりが映っている。これがブラジル青年移民へ花嫁として送り出された人達の現在の姿である。

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