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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香

花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=75・最終回

 目が見えないのは目の前の蛇に怯えないという諺と同じく、私の低能さは怖さをしらず前に進み生きてきてそのぶん失敗も多く、その失敗により現在の生き様があることにようやく気がついたことはあまりにも遅すぎである。 「目に見えぬ赤い靴はき生れし子が養母に抱かれしごめんとう名の駅」と歌ったが、目に見えない赤い靴を履いて生まれたゆえとは言え、 ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=74

 しかし、この言葉は私たち花嫁には礫となり飛んできて辛い言葉に長くなりました。先に書きましたコチア青年花嫁五〇周年記念祭を境に、言葉の礫はおおかた無くなり、花嫁移民ですと平気で言えることができているようです。 おお方の花嫁が辛苦を舐め耐えぬいて、現在「この国に来て良かった」と口を揃えて言い、私もやはり同じ思いを日々重ねていると言 ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=73

 私たちはこのような理解ある温かいことばを聞けるまで何十年かかっただろうか。このことばを素直に喜びたい。 毎年十一月第四日曜日は、小南ミヨ子氏の送り出した花嫁移民「ききょう会」の忘年会である。これに出席のため千五百キロ、二千キロ先から、もう若くない花嫁たちが集まってくる。 小南ミヨ子女史の送りだした花嫁の会「ききょう会」に参加さ ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=72

 五十年前、移民船は蚕棚式の船室で、五十数日の船旅をしてブラジルにきた第一回目の十二人の花嫁で今年金婚式を迎えられたのは五組。二十歳前後で移住した花嫁も二人他界したとのことである。 金婚式の花嫁はもうみんな七十歳代に入っているが、それでも厳しい移住生活にたえ生き抜き恵まれた老後のいま、力強い確りした声で挨拶をした。 花嫁を代表し ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=71

 「ラテン系は美しく、惹かれるものはありますが」と言い、「男性が若いうちはいいが、年齢とともに体力、精神力ともに弱さが出てくるし、食事にしても日本食を恋しくなりますから」と語っている。 ことに体調を崩した時など、日本人なら白かゆや、おじやなどが欲しいはずで、それを病人自身が作らなくてはならないのは辛いとも書き、また「彼女たちは経 ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=70

 農業を営む青年に嫁いだ花嫁のほかに、町で暮らす花嫁もこの歌のような生活からはじまった者の多いなか、小南ミヨ子著「海外に飛び立つ花嫁たち」の中の話には、いきなり成功者の妻となった花嫁のことも紹介されている。サンパウロ市で種子商を営んでいるS氏と結婚をしたS・Yさんである。取材をお願いすると、 「私にも他の人と同じように、いろいろ ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=69

 それは重なる災害で移住したことに疲れはて後悔していたのに、「ようこそ」とは言えなかったからだと後に知りました。兄に連れられ日本人宅を挨拶にまわりましたが、どの家にもマラリヤを患い黄色い顔をした人ばかりでしたから、兄嫁の気持ちはよく理解できました。その後私たち夫婦は、アマゾン河口の町ベレンから五十キロ離れたサンタ・イザベルの田舎 ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=68

  話すのみの夫の日本語筆談となりてひらがな書き始めたり 最近、Kさんの発表したこの歌の意味を電話できくと、ご主人のTさんは、親に連れられて来た子供移民で小学校の高学年で移住してきたようである。夫より学歴があり邦字誌「のうそん」に、たびたび短編小説を発表する彼女は信仰心も厚いが、ふと顔に教養のちがいを出してしまうことが、なかった ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=67

 つづいて手紙には、 「この時、私は農場の生活を何かで残したいと邦字新聞で目にした短歌を始めたり、小南先生の研修センターの同期生が、農場に尋ねてきてくれたときに頂いた聖書を初めて読みました。カンピーナスの養鶏場に戻ってから、主人は脳溢血で不自由な体になり、私は鶏舎の仕事を手伝いながら、週一回ですが子供たちに、日本語も教えていまし ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=66

 このK・Tさんは、彼女たち花嫁移民の母と呼ばれる小南ミヨ子著「海外に飛び立つ花嫁たち」の中で紹介されている。昭和五四年七月に移住した「国際女子研修センターの第九回生」である。ブラジルへ旅立つ矢先に住所変更を知らせるK子の手紙を受け取った小南ミヨ子女史は、「K・Tさんのことが気になり、ぜひ会いたいと思って宿泊したホテルに来ていた ...

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