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「移民亡国論」へのささやかな反論

 月刊誌『WiLL』昨年6月号に「移民亡国論―移民で成功した国はない」という論文が載ったのを読み、違和感を覚えた▼いわく《移民たちは社会保障にただ乗りし、あるいは犯罪率を押し上げ、ときには暴動を起こす》(228頁)とし、ドイツやスウェーデンでは人口の2割を占める移民が暴動を起こし、中国人移民を受け入れた台湾は共産党に乗っ取られかけていると論じている▼残念なことにこの論者は、米国やブラジルなどの南北米大陸諸国が移民国であるという世界史の基本すら知らないようだ。それで「移民で成功した国はない」と論じるのは、日本の知識人は「欧米とアジアの戦後しか見ていない近視眼者だ」と自白しているに等しい▼しかも《外国移民の多くは現地に馴染まず、特定のコミュニティで「独自の文化」「独自の言語」を使って生活する。一国のなかに「別の国」ができたような有り様になるわけで、当然ながら「国民」との摩擦や衝突が発生するのである》(229頁)と断定する。日本移民がそれをやってきて、ブラジル政府は容認・称賛さえしてくれているのを、知ってか知らずか。いざ外国人がそれを日本でやろうとすると今度はダメだと言う▼ここで欠落しているのは「移民受け入れと定着には3世代かかる」という移民国の〃常識〃だ。移住第1世代だけを取り上げて「現地語を覚えない」とやり玉に挙げるなら、当地の日本人自身がまさにそれをやってきた▼日本移民史という重要な近代史が日本で知られていないから、かの地の知識人が世界を見る時に国として大事な視点が欠落してしまう。それこそ「移民史欠落亡国論」ではないか。(深)