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終戦70周年=〃台風の目〃吉川順治の横顔=身内から見た臣聯理事長=(3)=インテリ耕捌の多彩な人脈

早田さんの両親(前列左から2人目が早田さんの母雪江、中列右から3人目が父耕捌)の結婚式に出席した軍服姿の吉川(中列の左から2人目)。後列右から2人目が海老名弾正(早田家所蔵)

早田さんの両親(前列左から2人目が早田さんの母雪江、中列右から3人目が父耕捌)の結婚式に出席した軍服姿の吉川(中列の左から2人目)。後列右から2人目が海老名弾正(早田家所蔵)

 早田(そうだ)さんの父・耕捌(こうはち)が働いていた「九州日報」(福岡県福岡市)は、玄洋社の頭山満を社長に1887(明治20)年に創立した「福陵新報社」が前身で、1898年に「九州日報」と名前を変えた。
 中国革命を支援したことで知られる宮崎滔天が〃番外記者〃として活躍し、のちに作家として有名になる夢野久作も〃編集長直属の遊軍記者〃として活躍するなど個性的な新聞社だった。
 耕捌は機関誌『日本基督教青年会同盟』の1912年12月号に「開拓者」という文章を寄稿している。26歳、この時にはすでに洗礼を受けていたようだ。
 1914年に東京で耕捌が結婚式を挙げた時の写真が、早田家に残っている。そこには軍服姿の吉川順治はもちろん、横井小楠の長女みや子と結婚した有名なキリスト教伝道者の海老名弾正牧師も写っている。耕捌のキリスト教人脈だろう。
 ウィキぺディアには《海老名は国家主義的であり、日露戦争、日韓併合をキリスト教精神の現れとして支持した。海老名の思想は、神道的キリスト教と呼ばれた》とあり、おそらく軍人吉川とも通じるところがあったかもしれない。
 その結婚式写真の裏には、出席者名も書いてあった。早田さんは「誰か国会議員も出席したと聞いた」という。吉川の左は「浅羽」とだけ書いてある。おそらく「浅羽靖(あさば・しずか)」だろう。1904~14年にかけて衆議院議員(立憲同志会)を務めており、ちょうどその時期だ。
 両親の結婚式写真中には、浅羽靖の妻の弟「谷津直秀(やつ・なおひで)」も、中段の右端に写っている。谷津は「日本の動物生態研究の礎を築いた人物」といわれ、1900年に東京帝大を卒業し、浅羽の援助により米国コロンビア大学で博士号を取得した学者だ。
 耕捌は当時珍しく米国カリフォルニア大学に2年間留学したので、その関係で知り合ったのかもしれない。
 「国会図書館サーチ」データベースで調べてみると耕捌は、25年にも『十字架を背負って』(警醒社書店)、『愛児を天国に送つて』(文化堂書店)などキリスト者らしい出版物を立て続けに出している。
 大正デモクラシーの風潮にのって、文筆家として身を立てようとしていたようだ。26年には『北米の移民生活』(警醒社書店)を出版した。米国留学中に見聞きした移民生活を本にしたようだ。
 25年は25歳以上のすべての男子に選挙権を与える普通選挙法と同時に、共産主義者を懸念して治安維持法が施行された節目の年だ。軍国主義が高まると同時に、キリスト教信者は苦しい立場に置かれた。
 早田さんは「父は北米の日本移民に関する本を出版したが、さっぱり売れず困っていたのでブラジルへ行こうとなったようです」と振りかえる。
 東京で3冊も出版したインテリが農業移民として渡伯した例は、ごく稀だ。32年に家族でバストスに入植したが、そんなインテリに辛い開拓生活が続く訳もなく、たった2年で見切りをつけた。
 早田さんが父の立派な経歴を「すこし呆れた」ニュアンスで語った訳が、その後の経緯から分かってきた。(つづく、一部敬称略、深沢正雪記者)


【大耳小耳関連コラム】

 早田耕捌の結婚式の写真で、早田の右には「小林富次郎」と写真説明にある。名前からしてライオン株式会社創業者の小林富次郎かと連想した。「そろばんを抱いた宗教家」との異名を持ち、終生、海老名弾正牧師を支えた人物だ。同牧師から歯磨き粉の製造方法を聞き、これを研究して1893年に「獅子印ライオン歯磨」を発売した。ただし、ライオンの小林富次郎は1910年没なので、計算が合わない。おそらく別の「小林富次郎」だろう。いずれにせよ、こんな人脈を持つ耕捌が入植したというのは、ブラ拓が力こぶで作ったバストスらしいといえそうだ。

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