ホーム | 文芸 | 連載小説 | ガウショ物語=シモンエス・ロッペス・ネット著(監修・柴門明子、翻訳サークル・アイリス) | ガウショ物語=(24)=皇帝の伝令=<2>=陛下から秘密の特命授かる

ガウショ物語=(24)=皇帝の伝令=<2>=陛下から秘密の特命授かる

 万一しくじりを仕出かしたりしたら、ただでは置かんぞ! と言った。
 何てこった!……しっかりとした足取りで、赤髭の前五歩ほどのところで直立不動の姿勢をとった。
 すると老将軍が訊ねた。
「今、話しているのは誰だかわかるかね」
「皇帝様でありますか」
「皇帝陛下、というんじゃ」
「皇帝陛下!」
 あの、いつも皆が噂をする皇帝だったのか。皇帝はか細い声でおっしゃられた。
「そうか、伍長……。私の側近として従卒となり、伝令役を務めてもらいたい。どうだね?……」
「しかし、皇帝陛下、うまく任務を果たせると思えませんが。わしは粗野な牧童です……。ですが、命令に従い任務を果たすことにかけては、誰にも負けない自信があります!」
 すると、皇帝は笑顔になり、老人も笑みを浮かべながら訊いた。
「わしが誰か分かるかね」
「分らないことがありましょうか!……一八四五年のグリーン・ポンチョの時から。あの暁に閣下のお手元に機密書類をお届けしたのが自分であります……。任務を果たすために、いったい何人のバイア兵をやっつけたことか……。閣下はご自分のテントで寝かせたり食べさせたりして下さいました。しかも翌日、見事な黒馬をくださいました……」
「あ、そういえばそうだったな……。で、お前はまだ、あの時のままの男か?」
「はい、閣下。骨はいくらか頑丈になりましたが、頭の方は相変わらずで!」
「皇帝陛下は確かな保証つきの伝令を必要としておられる……、使命には危険がつきものだが……」
「さようで!将軍殿!……今日から、これが自分の親父とお袋であります!」
 わしは伍長の徽章に口付けした。
 皇帝はわしの肩に手を置くとおおせられた。
「私はお前が気に入った。退ってよろしい……そして、誰にも言ってはならんぞ」
 お前さんは信じないかもしれないが……体の内が震えたもんだ――畜生!……
 わしは、皇帝というのは特別な人種だと思っていた……例えば全身金で出来ているとか、ダイヤモンドで覆われているとか、宝石のような目をしていて……。
 ところが見たとおり、わしらと同じように血肉の通っている人間で……しかし、なんと言うか謹厳な表情で、同時に穏やかで威厳にみち、思わず膝をつかせずにはおかない!……
 そんなお方だった!……。
 踵を返すと、自分の場所にもどった。騎兵中隊は銃器を捧げながら行進し、宿営をはった。すぐさま若いもんに取り囲まれて質問攻めにあった……だが、まあ、そこはもう古狸、適当にごまかして座を沸かせたが、肝心なことは胸にしまって、誰にも聞かせなかった。そうともさ……。
 夕暮れにはもう任務についていた。
 わしはお偉方――男爵様だの、子爵様だの、参事官殿だの、大臣殿など――の秘密会議以外のことなら、何でも見たり聞いたりしていた。
 そして、いろいろな興味深い場面に立ち会ったものさ。
 ある時、どこの誰か知らないが、空威張りする野郎が皇帝の御前に連れてこられた。そいつがもったいぶって話しかけた。
「すると、陛下はずっと、こちらがお気に入りですか」
「そうだ。大そう気に入っている」
「でしたら、ご家族とともに、こちらに引っ越されてはいかがです?……」(つづく)

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