ホーム | 文芸 | 連載小説 | ガウショ物語=シモンエス・ロッペス・ネット著(監修・柴門明子、翻訳サークル・アイリス) | ガウショ物語=(27)=娘の黒髪 =《2》=「とびきり上等な焼肉だ!」

ガウショ物語=(27)=娘の黒髪 =《2》=「とびきり上等な焼肉だ!」

 牛飼いのジュッカ・ピクマンが先頭を行き、おれ達を枝や蔓が絡み合った茂みに導き込んだ。枝を切り落としたり、棘から身を守ったり、血を吸う薮蚊を手で叩きながら森の中を進んだ……。誰も口をきく者はいない。若いやつらは阿吽の呼吸で従う。――今だから、お前さんにだけ言うが――若い頃のわしは、どちらかと言うと暴れん坊で……そのころはどうにもならない喧嘩好きな男だった……。
 牛飼いのピクマンは左の方へ道を開いて進んでいった。突然、川沿いの土手につきあたった。彼は無言で馬をゆっくり水に誘い込み、わしらはその後を一列縦隊になって、馬の背丈ぐらいの深みの所を渡った。
 かなりの距離を常に左寄りに歩いた。ずっと先の方で、もう一回流れを渡って、元いたのと同じ側の茂みに入り込んだ。円い輪をえがきながら行進したわけで、今度は政府軍の駐屯地の最後部に迫ったということさ。
 わしらは狭い草っぱらに馬を止めた。隊長はわしらに、合図ひとつで行動できるように、手綱を握ったまま馬から下りるよう命じた。
 それから隊長はジュッカ・ピクマンを伴って森のなかに入り、長い間なにやらひそひそと話していたが、やがて戻ってきた。
 そして、若い連中を見渡しながら、「だれかギターを弾くやつはいないか.……」と聞いた。
 ピクマンがすぐに口を出した。
「ここに優男のブラウ下士官がおります……」
「このガキか……」
「そうです。まだ若いが、この仕事に適役です……」
 それだけ言うと、眠そうな顔で手綱を引いた。隊長はわしを後ろに従えて、ピクマンの後を追った。おれは隊長の後について行ったが「ガキ」と呼ばれて、頭がカッカしていた。軍服の徽章さえ付けてなかったら、「お前こそガキだ」と言い返すところだった!……。
 わしらは歩いたり、止まったり、臭いを嗅いだり、耳をそばだてたりして前進した……。そのうちに、ピクマンがこちらを振り向かずに腕を上げ、掌を開いたまま止まった。隊長が止まり、わしも止まった。
「近いぞ…… すぐそこだ!…… とびきり上等な焼肉だ!……」とシルーが囁いた。
 そして、獲物を追う犬よろしく鼻をピクつかせて匂いを嗅いだ……。
 わしらは馬から下りた。「馬が啼かないよう締め縄で縛っておかないと…… 」
 鞭の細紐のところを締め縄に使った。
「草にひっかからないように、拍車を外して……」
 その通りにした。
「さて、隊長殿。この先はご命令のままに……」
 隊長は腕を組んで、しばらくの間、策を練っていた。それから、二人にというよりわしに向かって言った。
「ブラウ下士官、それからピクマン爺さん、危険な仕事だが覚悟して、思いっきりやってくれ……。ブラウ、爺さんが貴様を相棒に選んだのはいっぱしの男と認めてのことだろう……。知っての通り、この二日間 森の中を歩き回った…… だが、それは軍の作戦というより、おれ個人のことで……どうしても殴り倒してやりたいやつがいるからだ……。おれの女がここの隊長に誘惑されて逃げやがった。お前らは脱走兵としてあの部隊まで行って、入隊を申し出ろ……。やつはバカ騒ぎが大好きだし、女は踊り子だ……。だから、お前はギターを騒々しくかき鳴らして、大声で唄ってやれ……。バカ騒ぎが始まったら、思う壺だ。好きなようにやらせておけ……。やつらが油断している間に、おれは隊を連れてきて襲撃する……そこで…… 混乱が始まったら、お前自身が隊長を捕まえる…… 逃げないように縄を掛けろ……縛ったままにしておけ……。分かったな。できるか?……ピクマン手伝ってやれ……。それからのことは……後で決める……」(つづく)

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