ホーム | 文芸 | 連載小説 | ガウショ物語=シモンエス・ロッペス・ネット著(監修・柴門明子、翻訳サークル・アイリス) | ガウショ物語=(46)=ファラッポスの決闘=《終》=とどめを刺すなら今だ!

ガウショ物語=(46)=ファラッポスの決闘=《終》=とどめを刺すなら今だ!

 歩いていくと、遥か向うから川岸を降りてくる人影が見え、わしの後ろの方からは別の、もう一人がやって来るのに気がついた。
 ゆっくりと、まるで気楽な散歩をしているみたいに、ふたりは近づいてきた。
 ああ、言い忘れていたが、二頭の腹帯の下には、それぞれ剣が差してあった。
 気をつけて見ると二本の剣はそっくり同じだった。鍔は握った手にかぶさるような丸みがあり、刃は竿のように長くて、よほどの腕の男にしかうまく使いこなせぬ代物だった。
 わしが止まると二つの人影は近づいてきた。それは将軍とオノフレ大佐だった。
 しかも二人とも丸腰でな!……
 着くなり、二人は軍服を脱いで鞍の羊皮の上に置き、剣を引き抜いた。
 赤毛は大佐の馬で、黒鹿毛は将軍の馬だったんだ。
 すると将軍はわしにこう命じた。
 「そこで馬と共に待っておれ!」
 大佐もどなった。
 「だれか近づいてきたら、合図しろ!」
 そして林をまわって反対側へ行った。
 それで、ようやく、わしは策略に気がついた。二人は決闘を始めようとしていたのだが、同じ剣を持っての二太刀目はないってわけだ……。
 二頭の老馬に足綱をかけ、片目では馬を、もう一方の目では林の木々の間から決闘を見守った。
 二人はすでに向かい合って、身構えていた。
日の光が等しく二人に降り注いでいた。
 ベント・ゴンサルヴェス将軍は、軽やかな身のこなしでこの競技用の剣をさばいていた。剣はまるで細長い鏡のように、日の光の火花を散らした。オノフレ大佐は攻撃を受け止め、すぐ反撃したが、渾身の力で振り回す剣は閃光を放ってうなりを上げていた。
 その時、将軍が一歩跳び下がって、地面に剣を突き刺し、剥がれた軍靴の踵を取り除いた。
 大佐は、その間、腕組みをして、手に持ったままの剣は釘のようにぶらりと垂れ下がっていた。
 とどめを刺すなら今だ……だが誰がそんなことを……あの二人はそんなことをするお人ではない!
 そして再び剣が交差する。わしの頭上で一羽のサビアが囀りはじめた……心を揺さぶるようなその鳴き声と、風を切り裂く剣の唸りと、何とかけ離れていることか。一体どういうわけか、カラムルの連中――同じクリスチャンだ――との戦に明け暮れたこのわしが、目は戦うふたりに釘付け、耳にはサビアの囀りを聴いてはいたが、心は千々に乱れていた……生れ故郷、名付け親のこと、そしておふくろの祈祷壇のイエス・キリスト……。
 なおも剣の触れ合う音が続いた。突然、大佐が「あっ」と叫びをあげた。憤怒の形相だった。剣が手から落ち……血が腕をつたって流れ落ちていた。武器を失い、闘いに破れた……
 とどめを刺すなら今だ……だが誰がそんなことを……あの二人はそんなことをするお人ではない!
 将軍は再び剣を地面に突き立てると、傷ついた相手を介抱しようと近寄った。
 腕を取り傷を確かめると、帽子の脇にあった大判のハンカチを地面から拾い上げ、傷口をしばって止血をした。
 大佐は押し黙り、うめき声もあげない。
 それから将軍は剣を掴み、大佐に頭を僅かに傾けて合図してからこっちに向かって歩いてきた。
 ちょうど、わしが後ろに跳び下がり、馬のそばで膝を折って控えたのと同時だった。
 将軍は軍服を着て剣を脇に差し、馬に跨ると、わしにこう言った。
 「すぐに誰か人をこちらに来させる。それまでそこを動くな……」
 そして、手綱を取り、早足で野営地に駆け去った。
 辺りは静まり返って、林の中をサビアの囀りだけが響きわたっていた。林の向こう側では大佐の流す血が草の上に滴り落ちていたが、わしはこちら側でじっとしているほかはなかった。
 どうだ、お前さん。ずる賢いカステリャーノのどちらかが送り込んだ、あの女密使の魔術せいで、ファラッポスの絆がいかに縺れてしまったかわかっただろう?……
 だが、あのご婦人に男たちの誇り高い掟を破らせることはできやしなかったのさ。時には争う、命を賭けてな、しかし、掟に忠実な、常に誠実なガウショとして!
 あの時、二度の機会が見逃されたことの意味がわかるだろう?……その気になれば、止めを刺すことができたのだ……。
 お前さんには、このロザリオの祈りみたいな長い話を一つの珠も欠かすことなく、語り聞かせた。横着者が着古したぼろぼろのポンチョよりも穴だらけのわしの記憶だが……。それにしても、大昔の話しだな!……(『ガウショ物語』完結)

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