ホーム | 文芸 | 連載小説 | ガウショ物語=シモンエス・ロッペス・ネット著(監修・柴門明子、翻訳サークル・アイリス) | ガウショ物語=(35)=赤いスイカと青いヤシの実=《3》=丘陵の高みに敵軍の一隊

ガウショ物語=(35)=赤いスイカと青いヤシの実=《3》=丘陵の高みに敵軍の一隊

 馬具をつけるのを待つ間ももどかしく、伝令は馬に飛び乗ると駆け去った。脇目もふらずまっしぐらに目的地をめざした。
 野営地に到着して携えてきた書簡を届けると、さっそく旧知の若者、つまりコスチーニャを捜し出して、タラパ嬢さんが従兄と結婚することを知らせた。
 若者は、まるで沼地に足を取られ、肩まで投げ縄をかけられた牡牛のように怒り狂った。耳の上でつば広帽を揉みくちゃにして、サーベルを腰につけるなり叫んだ。
 「行くぞ、今すぐだ!レドゥーゾ!」
 「はい、旦那!」
 「おれ達の馬に鞍を置け! 急げ! 行こう!……脱走するんだ!……あのロクでなしの皮をひん剥いてやる!……脱走だ!……脱走だ!……おしまいだ、何もかも!……」
 「鞍をつけるんで?」とシルーは確かめた。
 「もちろんだ、畜生め!」と苛立って喚いた。
 この時、警報ラッパが鳴りひびいた……と間を置かずに、まるで泣き面に蜂よろしく、伍長が大急ぎで司令官の命令だとコスチーニャを呼びにきた……。まさに八方ふさがりの状態だね。
 丘陵の高みに敵軍の一隊が現れたんだ。司令官はコスチーニャに信任を置いている証にと、重い任務を与えることにしたらしい。攻め寄せる敵の一隊を側面から攻撃せよという命令だ……。
 さて、どうする?……虎の子はやっぱり虎だ!……
 若者は責務の前に涙を呑んだ。このような戦いのさなかに脱走して、汚名を残すことはできない。
 だが一つの思い付きが閃いた……。すぐさま馬に跨り、兵士を整列させて、隊の先頭に立つと「後でおれのところに来い、頼みがある!……」とレドゥーゾに言った。
 そして抜き身のサーベルを高々とかざして「皇帝陛下万歳!」と叫ぶや、鐙を力強く踏み、帽子は背にずり落ちたままで、敵軍に向って突撃した。勇ましいガウショ達は槍を振り回し、天地をもゆるがせる雄叫びを上げながら攻め込んだ。
 レドゥーゾは持ち前の上っ調子で仲間の注意をそらせておく一方、この騒ぎから一刻も早く抜け出そうと、手綱を絞って兵士らの後ろの方へ馬を廻した。
 そして、この攻撃の真っ只中――叫び声、罵声や呪いの言葉が行き交い、銃弾が飛び、サーベルの切っ先や槍の穂先の触れ合いが火花を散らし、馬と馬とがぶつかり合う――大混乱の中で、コスチーニャはレドゥーゾに知恵をさずけた。
 「今すぐ行くんだ。真っすぐに俺の家へ行く、ただし、長居はするな。タラパはあさっての夜、無理やりに結婚させられる……。お前は何としてでも、結婚式の前に着かなければならん……途中、馬が死んでも、かまわずほかの馬に乗り換えて、命がけで行け……。家でもどこでも、おれを見たとは絶対に言うな、おれのことを知っているとも言うな……。それから、セヴェロ爺さんの屋敷へ行って、何とかして家の中へもぐり込め。そして、彼女に聴こえるように『青いヤシの実から赤いスイカに便りだ』と言うんだ……。彼女には解る。お前は知らないが、ヤシの実はおれで、赤いスイカはタラパのことなんだ……二人だけの秘密だが、今はお前も知ることになった。さあ、行け。お前は先に行く、間もなくおれも後を追うから。もしもこの合戦で死ぬようなことがなければ。行け。レドゥーゾ!……青いヤシの実……赤いスイカ……忘れるなよ……。身を伏せろ!……伏せっ!……」
 シルーが馬の首の上に身を倒すのと同時に、三つ叉槍の穂先が背中をかすめた。間髪を入れず、コスチーニャのピストルが火を吹いて、長い髪の槍兵を倒した……そして、話の先を続けた。
 「喧嘩はするなよ……時間が無駄になるから……。いいか、あさってだ……。もしも、道中で眠ったり、めしを食ったりしたら、間に合わないぞ!……ずっと、手綱をゆるめたままで、レドゥーゾ!おれは今、抜け出せない……さもなければ、今すぐでも……だが、行くぞ……あした。お前は、今行け!……もう解ってるな。青いヤシの実から赤いスイカに便りだ……。何でもないことみたいに言うんだ……。彼女だけにわかる……彼女に聞かせなけりゃならんのだ……」
 「あいつに加勢を、若旦那!わしはこいつらを料理するんで……」
 いいながら、シルーは馬に拍車をあて、今まさに負傷兵の首を切ろうとしている二人のならず者を……蹄で蹴散らし、その勢いのまま叫んだ。
 「よく解ったよ。神様、お守りください!向こうで待っとりますぞ!……」
 言い終わるより早く、真一文字に草原を横切って、農場を目指して馬を走らせて行った。カステリャーノ共を小馬鹿にした罵り言葉を口の中でつぶやきながら。
 それからは時間との競争だ!……乗っていた馬が疲れてくると飛び降りて、だれのでもいい、別の馬と取り替える。道中で出会った人間に頼んだり、時に、力ずくで取り上げさえした。馬具を留める腹帯がすり切れたが、直している時間がないので、途中で放り出した。そうやって、鞍のない、敷き皮と轡だけの裸馬に乗って、婚礼の日の夕方、まだ陽が二ひろ(約4・4メートル)の高さにあるうちに、セヴェロ爺さんの家へたどり着いた。
 腰にボーラを下げ、ベルトに山刀をはさんでいるほかは何一つ持たず、くたくたに疲れ切っていた。ボロボロになって、空腹で死にそうで、しかも眠気と寒さに苛まれていたが、それでも目は爛々として、口は達者だった。二日前にうちを出て、牧草地から姿を消した何頭かの牝牛と……角が片方しかない牝牛を捜し回っていたなどと……見え透いた作り話を聞かせた。
 セヴェロ爺さんはびっくり仰天した……。
 「どうした、シルー?……お前はコスチーニャに従って戦に行ったんじゃなかったのか」
 「おれですか……いいや、親方!おれは途中まで馬を何頭か引いていっただけで、そこから引き返しました。戦場では鉄砲弾が雨あられ……槍の林は隙間もないほどだって聴きやした!……そうなんで!……若旦那のことは、今日までぜんぜん噂も聞かないです……。親方、これから牛を探しますんで、ごめんなすって……」(つづく)

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