ホーム | 文芸 | 連載小説 | ガウショ物語=シモンエス・ロッペス・ネット著(監修・柴門明子、翻訳サークル・アイリス) | ガウショ物語=(43)=骨投げ賭博=《2》=刃物一つで二つの心臓貫く

ガウショ物語=(43)=骨投げ賭博=《2》=刃物一つで二つの心臓貫く

 「月毛と?」
 「月毛とラリカだ!その通りさ。やつにはもう飽きあきしているところだ!……」
 「なら、受けて立つ。」
 見物人の中には目と目を交わし、ささやきあう者もいた。彼等にはこのガウショが運に見放されていることが分かっていた。すでにかね金も馬も革の長靴も、銀の太い鎖がついた平ムチまで、全てを失っていたのだ。そして、今度は、相手のほしいままにする略奪品をさらに満たすために、最後の賭けに出たのだ。それは愛人を賭けることだった。
 大変なことが起こりかけていた。噂はたちまち広がり、二人の周りを大勢が取り囲んだ。
 オゾロが投げた。当たり……
 シッコが投げた。当たり……
「なんだ、つまらん!」と見物人の一人が言い、
「もう一度やれ!」と他の者が言った。
 赤毛が投げた。外れ!
 オゾロが投げた。当たり!
 「相棒よ、俺の勝ちだ!」
 「気のすむようにしろ、兄貴!」
 「お前がこっちに渡すべきだ……」
 「どうでもいいが……約束は約束だ!……」
 夜が迫ってきていた。
 あの三人の間で何があったのか、わしは知らない。カウンターの隅で頭を寄せ合って話していた。赤毛のシッコがターバの賭け賃に彼女を賭けたと話したに違いない。オゾロが一言だけ言った。
 「おれが月毛を賭けて負けていたら、シッコは今ごろあいつにまたがって帰って行くところだろうさ……」
 ラリカは苦笑いに頬をゆがめた。オゾロを見、赤毛のシッコを眺めた。嫌悪のつばを吐き捨てると、男に面と向かって言い放った。
 「まったく、見下げた男ね!……女房を寝取られても平気なのかい。」
 「雌馬め! 拍車で蹴っ飛ばしてやる!……」
 「チェッ!お前さん、今になって、腹帯で締める気かい、出来そこないの腰抜けが……」
 そのとき、ギター弾きがダンスの曲を奏ではじめた、二、三組の男女が曲に乗って踊り出した。オゾロは切迫した空気を和らげるために、すぐ女の手を取り、腕を腰に回し、抱え上げるようにして踊りの輪の中に入っていった。赤毛は一言も言わなかったが、喉はカラカラで、目は異様に光っていた。
 その側を踊りながら過ぎたとき、女は甘ったれた声で言った。
 「私の黒ちゃん、いつでもお好きに」
 二度目に回ってきたとき、赤毛に対するあてつけのように、
 「あんたの馬の後ろに乗って行くわ」とオゾロにささやいた。
 次のときには女は黙っていたが、相手の胸に頭を寄せ、笑みを浮かべて男を熱く見つめ、口づけを迫るように唇をつきだしていた。オゾロは周りの全てを忘れてしまい……誘いの唇に自分の口を押しつけると、長い熱い口づけをした……。
 シッコは身震いし、絞るような唸り声を上げた。憤りにかられ、とっさに山刀を引き抜いて、腕を前方に突き出した……怒りに目が眩んで、見えるのはただ殺したい相手の姿だけだった……。
 山刀はオゾロの左脇のすこし後ろ側、肩甲骨の下を抜け、さらに、目がけてきた方向に進み、横向きのラリカの胸の左上に突き刺さった。
 分かるかい、お前さん? 同じ刃物が二つの心臓を貫いて、同時に二人を殺したのだ。それぞれの胸から流れ出た血は一筋の流れとなって……そして、踏み固められた硬い土間の上に広がっていった。じわじわ広がっていって……二人の体が壁にぶつかり、抱き合ったまま、もしかしたらもっと強く抱き合ったまま、ついにカウンターの上に倒れた。そこではギター弾きが、奏でていた甘いメロディーを止め、楽しげに踊りながら死んでいった男と女を瞬きもせず見入っていた。
 みんなが同時に叫びだした。
 「殺したぞ! 赤毛のシッコが!……縄だ! 逃がすな!……」
 しかし、赤毛は正気を取り戻したようだ。山刀を左右に光らせながら振り回し、ドアを蹴り開いて、中庭に飛び出し、オゾロの月毛が繋がれていた所まで行くと、馬に飛び乗った。そして、みんなに叫んだ。
 「ダンスを続けな!・・・」
 手綱をとると、夜の闇に消えた。
 アハニョンはもう上を下への大混乱だった。ロクでもない連中の中で揉まれ、鍛えられてきた、あの抜け目のないオヤジは、騒ぎの中でだたこうボヤくばかりだ。
 「やれやれ……骨投げをやって、悶着を引き起こしやがって……。その上、元締めには一文も払わずじまいだ!……何たるならず者どもだ!」
(「骨投げ賭博」終わり)

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