ホーム | 文芸 | 連載小説 | ガウショ物語=シモンエス・ロッペス・ネット著(監修・柴門明子、翻訳サークル・アイリス) | ガウショ物語=(8)=黒いボニファシオ=《4・終わり》=の怨念で男を滅多刺し

ガウショ物語=(8)=黒いボニファシオ=《4・終わり》=の怨念で男を滅多刺し

馬術に長けたガウーショの様子(Foto Eduardo Seidl/Palacio Piratini)

馬術に長けたガウーショの様子(Foto Eduardo Seidl/Palacio Piratini)

 それでも、狙いを付けて力いっぱい腕を突き出したから、山刀は付け根まで婆さんに突き刺さった。その山刀を持ち上げると、宙吊りにされた婆さんは身をよじ捩りもがく……。だが、それと同時に、あのガウショが放ったボーラの玉の一つが頭の天辺に、続いてもう一つがあばら骨の辺りに鈍い音を立ててぶちあたり、奴は地面に這いつくばった。首が折れた牛みたいに、口を大きく開けて、とがった舌の先をたらし、片脚を痙攣させて……例のバカでかい拍車の輪が小刻みに震えて鳴っていた……。
 お若いの、聞きなされ。
 その時初めて、わしは女の怨念の恐ろしさというものを間近に見た……。いや、まったく轡(くつわ)も足枷(あしかせ)も役には立たんだろう。男よりも始末が悪い!……
 トゥジーニャはもう泣かなかった。息絶えたナディコと最後の痙攣で震えているフェルミーナ婆さんの間にいて、わしの知る限りこの世に二人とない美しい娘は、ボニファシオに襲いかかった。やつのぐったりした手から山刀をもぎ取ると、それでやつの目玉を抉り出し、顔を切り刻んだ、刀の切っ先と刃を使ってだ。
 終(しま)いには口から泡を吹き、狂ったように笑いながら――それでも、眩しいほど美しい!――やつの脇に跪(ひざまず)くと、握った山刀で杭を打ち込むみたいにあいつの下腹を、もうちょっと下の方をさぐった――わかったかね、お前さん?……。そして、尖った刀を力いっぱい、繰り返し繰り返し突き刺した。一回、二回、十回、二十回、五十回、まるで穴の奥の毒蛇をめったやたら突いて突き殺すみたいに……まるで気色の悪いものを細切れにしてしまうみたいに……まるで大事にしていた宝物を、腹立ち紛れに毀(こわ)してしまうみたいなあんばいにさ!……
 居合わせたものは、みんな輪になってかたず固唾を呑んで見守っていた。眉をひそめながらも、一言も口を利くものはいない。死んだやつのために何かしてやろうとする者もいない。
 その時、だれかが早馬で駆けつけてきて、危うく人の輪にぶつかるところで馬を止めた。保安官だった。
 ずっと後になって知ったのだが、黒人のボニファシオはトゥジーニャを最初に……手なずけた男だったんだそうだ。その後でやつがいい仲になったのが、もう一人のあの平べったい顔をした、ぶ厚い唇の田舎娘というわけだ。あの日は新顔の娘を見せびらかして、トゥジーニャを不機嫌に、いらいらさせて、腹を立てるように仕向けようという考えで、急に思いついてその娘を馬の後ろに乗せてきたんだ。
 まさに思惑どおりだったが、トゥジーニャは若い連中と気ままに遊んでいて、中でもナディコはすでに一緒に暮らそうと誘っていたほどの仲になっていたが、ボニファシオとの件では――トゥジーニャとやつだけしか分からないことだが――娘はひどく傷ついて、涙に暮れていたんだ。だからこそ、まるで毒を抜かれた蛇みたいに復讐の念に取り付かれていたんだな。
 まあ、お聞きなされ。
 いまだにわしには解からないのだが、いったいどういうわけで世にも美しいモレナ娘が、あの醜男(ぶおとこ)の黒人の若者にいいようにされちまったんだ?……
 やつの悪党ぶりに、怖気づいたのか……。あまりにも無邪気で、何も知らなかったからか……。あいつの力が強くて、娘の力が及ばなかったから?……それとも……
 まあ、兎にも角にも、彼女は復讐した。そうだ、復讐したんだ……。だが、その後で奴の体にやったあれはどういうことだ。ナディコに許しを請う気持ちがそうさせたのか、それともあの分厚い唇の田舎娘への腹いせだったのか……。
 いやはや、女というものは!……
 女農場主でも雇われ女でも、どいつもこいつも同じことさ……我がままでずるがしこくて……。人一倍素直で優しそうな女でさえ、古狐よりも悪賢いものなのさ。

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