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『百年の水流』開発前線編 第一部=北パラナの白い雲=外山脩=(24)

第1回日伯親善マツバラサッカー使節団。総理官邸に中曽根康弘首相を訪問。化石をプレゼントする松原重人。左から首相、松原武雄、永野重雄日伯青少年交流協会会長(『綿作王 松原武雄』より)

第1回日伯親善マツバラサッカー使節団。総理官邸に中曽根康弘首相を訪問。化石をプレゼントする松原重人。左から首相、松原武雄、永野重雄日伯青少年交流協会会長(『綿作王 松原武雄』より)

資金繰りに苦しんだ!

 2014年、筆者は松原武雄の弟のスエオ氏(二世)が健在であることを知った。バンデイランテスに住んでいるという。会って筆者の推定を確認したいと思った。が、多分、先方は断るだろうことも予想できた。気の進む話ではない。
 筆者は数カ月かけて紹介者を探した。その人がまた別の紹介者を探してくれた。彼らの尽力で、スエオ氏が会うことだけは承知してくれた。その知らせを受け、協力者たちとバンデイランテスのスエオ氏宅を訪ねた。同氏にとっては、億劫なことであったろう。質問に対する答えは一つ一つ短かった。
 事業は確かに1990年代に終わらせたという。コンコルダッタは申請しなかった、倒産したわけではない──と。そういう終わり方が出来たのは、当時としては、むしろ良い方であったろう。
 氏の短い話の中に「資金繰りに苦しんだ」という言葉があった。筆者が「あの時代は、金を返すために金を借りる──という悪循環に陥った所が多い」と言うと、同氏はパッと筆者に視線を向け「そうだヨ」とハッキリ答えた。実感が籠っていた。
 フォルクス・ワーゲンから買った牧場については、こう言った。
 「借金が大きかった。金利、重たかった。遠過ぎた」
 やはり推定は大筋で当たっていた。
 マツバラの経営を狂わせた要因に、棉がビクード(害虫)で、大きな被害を受けたこともあったという。借金経営の場合、こういう想定外の事故が起こると、資金繰りが混乱、さらなる狂いを招く。
 ボアッテ遊びについては、スエオ氏は「誰でもすること」と、噂を気にしなかった。
 その他、これは、この国の農業界全般を襲ったことだが、労働問題、強盗の横行、セン・テーラ……と事業環境は、悪材料が山積していた。結局、マツバラは事業を終えることにした。
 しかし会社を閉鎖する場合、その法的処理は簡単には行かない。無数の厄介な手続きを踏まねばならない。これを片付けるのは大変である。マツバラの場合も10年かかったという。すべてが片付いた時は2000年代に入っていた。
 その会社閉鎖を進めていた時期、武雄は生きていた。年齢的には70代から80代にかけてである。マツバラの最期を見ていたことになる。何も言わなかったという。

 疑問

 マツバラが、そこに至った過程を見直すと、疑問が幾つも湧く。例えば、ブーグレの買収である。このファゼンダは──すでに触れたことだが──名門であったとはいえ、営農上からみれば、もう魅力ある土地ではなかった。しかるに武雄は買収しようとし、しかも落札に拘り、評価額より2割近く高値をつけてしまった。少年時代への感傷から、経営の原則を外してしまったことになる。気持ちは良く判るが……。
 これが1972年であるが、翌年、石油ショックが起きている。こういう場合、新規の投資は中止するのが常道だが、フットボール・クルーベの計画を進行させた。ほかにも、首を傾げたくなるような事が幾つか起きている。1983年、フットボールのチームを率いて訪日、各地で交歓試合を行った。これは、日本側の招待であったようだが、農業界が史上空前の危機にあった時期である。
 その訪日の折、武雄は首相や財界の大物から、揮毫や感謝状を貰って帰国した。それをブーグレの邸宅の壁に掛けて客に見せ「移民一代、男の面目を施した。思えば一巻の人生劇場です」と陶然としていた。邸宅には大臣、州知事、日本の大使、進出企業の社長たちを次々招いていた。客は口々に彼の成功を讃えた。同じ頃、温泉地での観光事業にも手を出している。
 それと、1987年のフォルクス・ワーゲンの牧場買収であるが──。
 買収価格は3千万ドルという巨額であった。しかし、それだけの現金を用意してのことではなかった。アレコレ資金繰りをしての支払いであった。ブラジルが大破局に突入していた時期にこれは、どういうことであろうか。それと、何千キロも北の果ての14万ヘクタールだの4万頭だのという規模の牧場の内情が、買収時、簡単に判る筈もない。無論、充分、考慮した上での決断であったろうが、最終的には賭けであった。
 武雄自身、農業雑誌のインタビューで「マツバラの運命を賭ける」と明言している。が、結果は裏目に出た。経営に賭けがあってはならない。
 以上の疑問、「後からなら、何とでも言えるサ」と反論されれば、それまでのことであるが──。

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