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タバコ反密輸対策の矛盾=「国会クーデター」の明暗=パラグァイ在住 坂本邦雄

連邦議会の密輸対策委員会で演説するエフライン・フィーリョ連邦下院議員(3月3日、deputado Efraim Filho、Foto: Marcelo Camargo/Agencia Brasil)

連邦議会の密輸対策委員会で演説するエフライン・フィーリョ連邦下院議員(3月3日、deputado Efraim Filho、Foto: Marcelo Camargo/Agencia Brasil)

 「民間事業理念と善隣イデオロギーの理想は、対密輸国際協力政策を計るに当って必ずしも相容れなく、その効果に期待はできない」とは、ブラジルの民主党・DEMのエフライン・フィーリョ連邦下院議員の主張である。
 つまり同野党派下議は、タバコ産業の企業家でブラジルへの密輸タバコを生産し、暴利を貪っている張本人のカルテス大統領の政権と国際密輸対策協定を協議するのはナンセンスで、矛盾した話にも程があると切り捨てるのである。
 そして、ジウマ大統領はイデオロギーや善隣主義から離れた決然たる態度をカルテス大統領に示し、非合法なタバコのブラジルへの導入断絶の術を確立すべく、強硬に交渉しなくてはならないのだと強調した。
 この提議は、最近(11月初め)パ国エステ市対岸のブラジルフォス・ド・イグアスー市の連邦警察支署の講堂で開催された『ブラジル国境地帯の安全保障問題第Ⅱシンポジウム』で演説した一人、エフライン・フィーリョ下議によるものである。
 「密輸撲滅の対策を、タバコの不正輸出に関わっている当の張本人が牛耳る政府に対し、その解決を求めて交渉するのは正に矛盾する」 「この相手たるカルテスは企業家出身の出自を忘れ、問題の解決に真摯に取り組んで貰わなけくてはならない。まして、現在パラグァイはメルコスールの輪番議長国であるにおいてをやである」とエフライン・フィーリョ下議は厳しい。
 同下議は、「パ伯両国の善隣関係維持の口実が、組織犯罪撲滅の理由よりも重く、その障害になってはいけない」と云う。

低品質なパラグァイ産タバコ

パラグァイからの密輸品を調べるパラナ州軍警(Foto: PMPR, 19/10/2015)

パラグァイからの密輸品を調べるパラナ州軍警(Foto: PMPR, 19/10/2015)

 なお、エフライン・フィーリョ下議はパラグァイ産の密輸タバコがブラジルにもたらす大きな被害は経済レベルのみならず、公衆衛生に及ぼしている重大な害毒も見逃せないと力説する。
 南マット・グロッソ州のポンタグロッサ大学の研究によると、パラグァイのタバコは基本的な衛生保健基準を充たしていない事が確証された。
 同研究ではパラグァイ産18種類の各種ブランド製品が分析されたが高濃度の発がん性金属物質類の他にダニやカビ等の汚染異物が検出された。
 これ等の害悪はブラジル国庫に年間40億レアルもの公衆衛生面及び警備面での甚大な損失を与えているのである。
 全ての密輸品貨物の中、連邦税務局・RECEITA・FEDERALに依る摘発、没収の検挙が及ぶのはわずか5%から10%に過ぎなく、至って貧弱な実績でしかない。
 最期に、エフライン・フィーリョ下議が深く自己反省するのは自国の法制の欠陥である。
 いわく、「国境犯罪を処罰する法律を制定するのは、いとも簡単な話しである。真剣に挑戦すべき問題は、実地に活躍する技術部門の効率化にある。法律はそれを支援するに過ぎない。未だまだ多くの挑戦課題は山積している」と。

ジウマ大統領の負い目

 政治の世界は奇奇怪怪である。ジウマ大統領はかつてのルーラ政権時代からのペトロブラス大汚職のスキャンダルが祟って、政治経済情勢は混沌たる様相を呈し、国民の人気・支持率は最近9%にまで落ち込み、ジウマは実権を失い、実際に国を統治しているのは閣僚達だと言われる。
 そんな情勢の中で益々盛んな野党勢力はジウマ大統領の失政を追及し、連邦議会で弾劾裁判に付し、罷免に追い込もうとする動きが強化している。
 だが、ジウマ大統領もそうは簡単に凹むものではなく1日、『連邦議会は、パラグァイ流の国会クーデター(インピーチメント)を以って私を追い落とそうとしているに他ならない』と苦し紛れに発言し、ブラジルの一連の新聞が暴言として取り上げた。
 これを知ったパラグァイ政府は、意外なジウマの表現を不快とし、ジョセ・エドゥアルド・マルティンス・フェリシオ駐パ大使を外務省に招致し、ブラジル政府のしかるべき釈明を求めた。
 ジウマが触れた「パラグァイ流国会クーデター」とは、2012年6月に時のルーゴ大統領を政務不振の廉で、国会両院が合憲弾劾裁判によって公正に更迭したハプニングの事である。
 これを以って大統領に昇格したフェデリコ・フランコ副大統領の臨時政府を非民主的政権と断じ、ブラジルとアルゼンチンの主導の下にパラグァイのメルコスール正会員国の資格を剥奪し、国交も断絶した。
 結果は、パラグァイがかつて執拗に反対して来た、ベネズエラ国のメルコスール正会員国加盟が、パラグァイの正会員権停止で早々に実現した。
 その当時、パラグァイが国会弾劾(インピーチメント)を以ってルーゴ大統領を更迭して仕舞った始末を、他のメルコスール正会員国が非民主的行為として非難したのは、一つの「国会クーデター」の前例として残る事を各国が恐れた為でもあった。
 奇しくもそれを今回当のジウマ大統領に対しブラジル連邦議会が適用しようとしているのは皮肉な廻り合わせである。
 つまり、ジウマ大統領は結論から言って、既に〃道徳的権威〃がないのである。
 かたや、わがカルテス大統領もしかりで、いわゆる〃道徳的権威〃を備えていない者同士の間で、冒頭でエフライン・フィーリョ下議が指摘した「対密輸国際協力政策討議」の構想は一種の美しい理想に終わって仕舞うであろう。

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