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ブラジルにもあった極秘の原爆開発計画

もし聖市セー広場で広島型原爆が爆発すれば、サンジョアキン駅手前まで火の玉に包まれ、即死する

もし聖市セー広場で広島型原爆が爆発すれば、サンジョアキン駅手前まで火の玉に包まれ、即死する

 年始には北朝鮮が自称〃水爆〃実験、さらにロケット発射など、日本周辺が不穏な空気に包まれている。「南米には原爆がなくてよかった」と他人事のように考えているかもしれないが、歴史的には案外そうでもない▼原爆投下70周年の昨年は、考えさせられる取材機会が続いた。ラーモス移住地への長崎平和の灯分灯の折には、日本の報道関係者に「どうしてブラジルは核拡散防止条約や非核地帯条約の締結に意欲的だったのか?」との質問を受け、調べる中でとても勉強になった▼南米でブラジルとアルゼンチンは常に競争的な隣国関係にあり、1970年代、80年代を通して、両国軍事政権は極秘裏に原爆開発計画を進めていた。ポ語版ウィキペディアによれば、ブラジルは1970年代の西ドイツと原子力協定を結んで、原発技術の移転を進め、1980年から極秘の「パラレロ計画」でウラン濃縮を始めた▼軍政下の議会核エネルギー部会は、秘密銀行口座コードネームDeltaを開き、核開発の費用を捻出していた。民政移管直後の87年、サルネイ大統領は「20%の濃縮ウランがある」と衝撃の発表をし、90年就任のコーロル大統領はパラー州にあった関連試験場を閉鎖した▼議会調査委員会の報告によれば、二つの原爆開発計画が進められていた。一つは20~30キロトンの破壊能力を持つ型、もう一つは広島投下型と同じ12~15キロトンの型だ。1981年にイラクから8キロのウランを密輸しており、積極的に開発を進めようとしていたことは明白だ▼原爆被害推測サイト(www.carloslabs.com/node/16)で、聖市セー広場に広島型原爆が投下された想定をしてみたら、見事にリベルダーデ広場は即死圏に入り、パウリスタ大通りやアクリマソン公園の直前あたりまで、核爆発の火の玉が広がり、建物が消滅することが分かった。爆風はパライゾ駅とアナローザ駅の中間ぐらいの建物をなぎ倒す。17万人が即死し、19万人が負傷すると推測される▼昨年11月28日、『Hiroshima e Nagasaki』(ベンジャミン出版、中川クリスチアネ、遠藤パウロ編著)出版会で、ブラジル被爆者協会の森田隆会長(91、広島)らと話していて感銘を受けた。各地で被爆体験の講演をすると、必ず「アメリカを恨むか」「復讐しようと思わないか」と来場者の伯人から質問を受ける。そんな時、「復讐心はもう通り越した。いくら復讐しても平和は来ない。これからどうしたらいいかは、皆さんで考えてほしい」と問いかけると、相手はみな一様に考え込んだ表情になる、と。「そうすると、それまでより一歩踏み込んだ考え方を、皆さんがするようになる。それが我々の役割」と森田さんは手ごたえを感じている▼中東のイスラム圏、欧米のキリスト教圏、もしくはその相互関係において起きている抗争は、基本的に『報復の論理』だ。その復讐の鎖を断ち切ること以外に、世界に平和をもたらすことは難しい。どうしたら、そういう考え方への共感が広められるのか。難しい問題だが、今最も大事な問題だろう▼伯亜両国が原爆開発を放棄したのは1991年12月13日だった。奇しくもラーモス移住地で核兵器廃絶を祈って長崎平和の灯分灯式が行われたのは14年後の12月12日、「南米平和」という節目のタイミングでもあった。(深)

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