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「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(24)

「肝心のアナについての情報が、ほとんど無いですね。今までのお話を聞いても、アナがなぜ死んだのか、手がかりがつかめません」
「そうなんだよ。でも、アナの母親だという女。あれはまるっきりでっち上げだということが分かったな。守屋が撮った家族写真を見せてもらった時、アナと彼女の母親があまり似てないから変だと思ったけどね」
「それについては、世話役の守屋さんが気を利かせてくれたのかもしれません。僕の両親は亡くなったし、アナとカロリーナの本当の親がどこにいるのか知りませんが、とりあえずその女中さんが母親役をしてくれれば、日本に持っていくための家族写真は撮れますから」
「なるほど・・・。でも、アナが日本でブラジルにいる母親の誕生日を祝ったというのは変な話だ。なにせ、その母親というのは偽者だからね」
「その女中さんは、カロリーナの家で長年働いていたのですから、アナとも親しかったかもしれません。南米では、身の回りにいる人間の誕生日というのは、大切にしますよね。僕の両親も、スーパーの従業員みんなの誕生日を覚えていて、誕生日には朝一番にお祝いを言って、あらかじめ用意したプレゼントをあげていたくらいですから」
 やれやれ、この男は本当に人がいい。人を疑うことを知らない。
「そうかな・・・。それにしても、アナについての情報があまりにも少ないんで、妹のカロリーナのことでも調べれば、何か分かるかなと思って、彼女が前に働いていた旅行会社の東京支店に行って話を聞いてきたよ」
「そこまでしていただいたのですか!」
「どうせ暇なボランティアだからね」
 酔いが回って頭がふらふらしてきたが、私は、渋谷で女支店長から聞いた話をなんとかリカルドに伝えた。
 話を聞いたリカルドは、今度は少し納得したような顔をした。
「実は、今のお話を聞いて、思い当たることがあります・・・」
 リカルドは出された料理を一通り平らげたようなので、『新宿ゴールデン街』のしきたりに従って、別の店で飲み直すことにした。自分が払うというリカルドの手を払いのけ、酔うと出てくる南米時代の癖で、女将に気前よくチップ込みの勘定を払って店を出た。
 足もとがおぼつかなかったが、近くの『トリスバー』(昔のサラリーマン向け安酒場)になんとか滑り込んだ。この店で飲むのは、かつてオヤジの定番だったという「ハイボール」(ウイスキーのソーダ水割り)と決めている。リカルドにも同じものを勧めた。
 外の空気を吸ったら、いくらか頭がさえてきたので、景気よく二度目の乾杯をして、話を続けた。
「じゃ、今度は君の話を聞こうか」
「実は、アナが死んでからのゴタゴタが一段落して、派遣会社の山本さんから飲みに行こうと誘われました・・・」
 リカルドの話では、山本は月に二回くらい、新宿にある派遣会社の本部に報告に来るらしい。新宿では仕事のあとに、歌舞伎町にある「エル・パライーソ(天国)」という南米からの出稼ぎホステスがいるクラブによく遊びに行くが、ずいぶん前にその店でリカルドの妻によく似た女を見かけたという。そこの従業員の話では、女は「エバ」と名乗り、当時店の人気ホステスだったそうだ。

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