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南米諸国の右傾化は進むか=統治欠如と大衆迎合主義=左右を問わず潜む危険性=パラグァイ 坂本邦雄

前列左から当時のクリスティナ亜国大統領、パラグァイのオルテス大統領、ジウマ大統領、ヴェネズエラのマドゥーロ大統領、ボリビアのエボ大統領。第48回メルコスル会議で(2015年7月17日、Foto: Lula Marques/Agencia PT)

前列左から当時のクリスティナ亜国大統領、パラグァイのオルテス大統領、ジウマ大統領、ヴェネズエラのマドゥーロ大統領、ボリビアのエボ大統領。第48回メルコスル会議で(2015年7月17日、Foto: Lula Marques/Agencia PT)

 最近12年間において左派が君臨していた南米のほとんどの国々は、ここ8カ月の間にその覇権勢力を失って来た。その最も顕著で衝撃的だったのは昨年11月にアルゼンチンで、クリスティナ・キルチネル政権が中道右派のマウリシオ・マクリ氏に大統領総選挙戦で思わぬ敗北を喫したハプニングだった。
 そして、1カ月後にはヴェネズエラで、これまでは無敵を誇ったチャべス派マドゥロ政権は一院制国民会議の議員改選で反対派に壊滅的な議席過半数の席捲を許した。
 その2カ月後の2月には、同じくボリビアの無敵エボ・モラレス大統領も、憲法改正をもって新に大統領の無期改選を図るべく召集した国民投票で圧倒的に敗れ、任期の2020年には退任せざるを得なくなった。
 更に3カ月後の5月には、地域の最大国ブラジルのPT・労働者党のジウマ大統領は、政治弾劾で180日間の国会による罷免審議に付され、暫定的に臨時大統領に昇格した中道右派のテメル副大統領に政権を預ける始末。その挙句に、改めて復職出来るかどうかは疑わしい。
 ただし、たとえこの右傾化の大波は止まる事を知らぬもののごとしと言えども、前記各国が陥った政治、経済情勢そのものが、非常に深刻化している為に、容易に右への舵取りがなしえるか、又はガバナンスの欠如で政局の混乱を来たすかは未知数である。
 これ等の全ての国々の左派政権は、かつて大豆の国際価格がトン当たり180ドルから600ドル、及び石油が1バレル20ドルから140ドルまで高騰したコモディティ・スーパーサイクル時代(商品先物取引所で取引されている商品価格が高騰していた特殊な次期)に登場した政府なのだった。
 この好調な経済動向がそれら諸国の財政を大いに潤わせ、それぞれの政府は潤沢な財源に恵まれたのは良かった。だが、社会政策や大仕掛けな汚職を介して甘い汁を迎合者達に存分に分配したのが罪となった。
 この好況期に大多数の人々は就職をえたり、補助金や助成金の恩恵に浴し、困窮生活から脱出する事ができた。
 同じく、公衆衛生や教育改善の社会政策、または金融機関の便宜供与により、庶民の画期的な生活程度の向上が見られた。
 問題はこのコモディティ・スーパーサイクルの好景気の終焉が、それらの左翼政府をして膨大な財政赤字、経済不況、インフレの上昇や貧困の増進に再び苦しむ破目に至らしめたのである。
 そして、危惧すべきはこれらの全ては社会全体に浸潤した大層な腐敗が背景にあってこそ有り得た事である。
 これら一連の事象を見る限り、亜国キルチネル主義の倒壊、ブラジルジウマの罷免審議騒ぎや、ヴェネズエラのチャベス主義と、ボリビアのエボ・モラレスが国民投票で敗北したのは当然であり、特に驚くには当らない。
 しかし、後継の各右派政府は前政権が遺した正に一触即発的な経済破綻、政治、社会問題の重荷を受け継ぎ、その収拾に苦慮せねばならないのは皮肉である。
 先ず、経済面ではアルゼンチンのGDP・国内総生産の7%、またはブラジルの同10%、あるいは同じく予想されるヴェネズエラの同18%以上に、それぞれ該当する巨大な財政赤字の問題が大きく圧し掛かっている。
 これに対し、パラグァイのそれは1・5%で、EU・ヨーロッパ連合の場合は3%に過ぎない。問題の経済再生レシピは理論的には比較的簡単なのではあるが、各当該国当局がその改善策を忠実に実施すれば、必然的に爆発するであろう社会騒動で折角登場した〃救世政府〃そのものの存続が危ぶまれる。
 つまり、南米諸国は右派や左派政権に限らず、統治性の欠如と大衆迎合主義の危険性が非常に高いのである。
 したがい、パラグァイは隣接諸国の情勢を良く見極めながら、「他山の石」として国運を誤らない様に心掛ける事が肝要である。(註・本稿は6月12日付ウルチマ・オーラ紙に掲載されたアルベルト・アコスタ・ガルバリノ政経評論家の記事を参考にしたものです)。

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