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実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(11)

「ゴーッ」
 砂まじりの風が通りすぎて枯れ草が宙に舞った。乾いた太陽がギラギラと輝いた。
 厳重に固めた軍警兵の包囲の輪がジリッとまたひとつせばめられた。こちらの呼びかけには何の応答もなく、しんと静まり返った家の中からは物音一つ聞こえない。
 こんな状況に業をにやしたか、既に屋敷際の木柵にとりついた一群が一斉に撃ち出した。
 バリバリ、バリン――弾は土をはね、窓を砕き、扉をうがった。味方の援護射撃を背に数人が「ソレッ」と木戸を押し破った。現われた軍警兵の姿は絶好の的だった。満を持した源吉の銃が火をふいて、たちまち、二人、三人と傷ついた。
 軍警兵側も数を頼んで負けずに応射する。敵味方の弾丸が乱れ飛んで、たちまち戦場のようになった。
 家にたてこもった源吉には正吉と勝次がついていた。三丁ある銃に弾をつめては「父ちゃん、がんばれ」と次々と源吉に手渡した。
 軍警兵側の弾丸の雨がちょっと途切れると、正確な源吉の弾丸が飛んで軍警兵を倒した。源吉の弾丸には今まで受けた非道に対する無念さと、日本人としての誇りがこもっていた。
 数と火器に圧倒的に優る軍警兵側も木柵の外に釘付けにされたまま、一歩も屋敷内に踏み込めない。
 こんな応酬が繰り返されて、また、ひとしきり弾丸が飛び交ったとき、勝次が叫んだ。
「父ちゃん、もう弾丸がない!」
 最後の弾丸を源吉愛用のウインチェスターにつめ終えると、空になった弾薬箱を指差した。
「そうか」
 汗に汚れた顔をぬぐおうともせず源吉は二人の子供達をジッと見つめた。
「やむをえん」
 愛用の銃を受け取るとその銃身を撫でるようにぬぐった。
 鍛え抜かれた鋼鉄はにぶく黒い光を放った。
 どれだけの時が過ぎただろうか。もういっぱいの弾丸を受けて穴だらけになった家の扉が内から開かれると、源吉がパッと飛び出して来た。
 銃を腰に構えたまま、源吉は前に出た。
 意表をつかれた軍警兵側も一瞬息をのんだ。
 大きくはないが底太い声が叫んだ。
「大日本帝国万歳!」
「天皇陛下万歳!」
 叫ぶと同時に軍警兵陣めがけて突進した。
 その時だ、突然、ダダダダーと銃が乱射された。いつのまに廻り込んだか、横にも別の一隊がいたのだ。
 日本男子、源吉の壮烈な最期だった。
 銃声がピタリと止んで、あれほど激しい撃ち合いがあったのがまるでうその様に、あたりはシーンと静まりかえっていた。
「ゴーッ」
 乾いた砂を巻き上げて、また風が通り過ぎた。
 源吉の家は何事もなかった様にそこに建っていた。その屋根の上高く、白地に赤も鮮やかに、日の丸の旗がはためいていた。
 ブラジルの空は高く、青く澄んでいた。
(勝ち組―Iの部 おわり)

(この後、『勝ち組-IIの部』に続きます)

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