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勝ち組=かんばら ひろし

実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(23)

 やがてみどりの椰子の葉や白いバラの花で飾られた通路を通って、旧都オウロプレットからの聖火が到着した。  大統領の手によってこれが火籠に移されると、聖火がパッと生き物の様に燃え上がった。  やがて、この火が幾つかの十能に取り分けられ、ゴラール大統領、小阪日本代表、ビント・ミナス州知事らによって高炉内に投入された。  この瞬間を待 ...

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実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(22)

「ウン、今日は24日、今夜中につけばすぐはめ込みの調整をして、あと、水や電気の接続、配管をして、テスト運転も出来る。25日中には何とか準備出来るだろう」 「そうだな、招待客がつめかける26日当日に、組み付けやテストは出来ないからな」  二人はこの先、火入れ式までの手順をいろいろと話し合った。  外はどんよりとして暗い。行き交う車 ...

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実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(21)

 二人はこれは有ると直感した。ここで入手出来るなら、金には代えられない値打ちだ。でも足元を見られて法外の金を払うこともない。それに破損状況や何個あるかにもよる。 「物によるんだ。有るならとに角現物を見せてくれ。こっちの希望通りのものなら、カネはいくらでも払う」  ゼーは二人を屋外の置き場ではなく、物置の方へ案内した。暗い中で部屋 ...

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実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(20)

「銅製品のスクラップが有ったら見せて貰いたいんだが」 「最近銅製品を売りにきた者はいないかね。こんな丸い形をしたものなんだが」  勝次と三郎はベロオリゾンテの古鉄銅屋を一軒一軒訪ねて回った。  前夜遅くホテルに着いてからすぐ電話帳でスクラップ業屋を拾い出しリストを作って、あたり始めていたのである。電話では相手の表情も掴めないし、 ...

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実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(19)

 事件はすぐ上司の吉田さんに報告された、関係者だけで内密に対応が協議された。 「二十六日の火入れ式には大統領の他、日本政府のお歴々も出席することになっており、今更部品が盗まれて火入れが出来ない、などで式典の延期は出来ない」 「大幅に遅れた火入れ日程がまた遅れれば、工事責任者の能力だけでなく、日本の計画や技術が悪いから、と言われる ...

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実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(18)

火入れーイナグラソンー来賓入場

 多くの困難を乗り越えながら、日本とブラジルの最初の共同プロジェクトと言われる工事は前進した。本当に鉄を生産することになる高炉の火入れ――操業開始が若干の無理を承知で十月二十六日と決められて、高炉の周辺は一層の騒音と緊迫感につつまれ、戦場もかくやと思わせる雰囲気になった。  工事の遅れを取り戻すため、昼夜兼行の突貫作業が実施され ...

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実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(17)

「いっぱいある細かい電線の接続には苦労したな。あれだけ何十本という線を間違いなく繋ぐのには本当に神経が疲れたよ」 「本当にな、電気を通してカラーシグナルがちゃんと設計通りに点滅した時は嬉しかったな」 「エー、ほんとか、リカルド。俺はな、赤や緑のシグナルランプを見てたら、ファブリシアーノの色電気とマリア・ボニータの姿が目に浮かんだ ...

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実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(16)

日の丸の旗

 吉田さんは少し間を置いて、皆がここまで理解していることを認めてから、また、続けた。 「それに、日本人の良さが認められ、日本の国に力が付くということは、即ち、ブラジルの日系人、ここに住む日本人の血を引く皆、の地位の向上に繋がることでもあるんだ。今まで日本人は個人レヴェルの力でブラジルの農業に大いに貢献して来たが、今度は大きな資本 ...

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実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(15)

高炉と熱風炉(現在のもの)

 今日は吉田さんの話の日で、勝次達も出席していた。吉田さんはブラジル人たちに技術的なことを分り易く説明してくれたが、通訳を通してのポルトガル語での所定の講義が済んだあと、希望者に更に日本語で話すことになった。  自然、日系人ばかりとなり、吉田さんも直接日本語なので、色々とコース外のことを話してくれた。 「ミナスでは世界有数の良質 ...

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実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(14)

ドロドロと鉄が溶けた高炉

 ここミナス州イパチンガ(町)は日本とブラジル合弁の最大のプロジェクトと言われた一貫製鉄所建設の現場だった。  日本側は数百億円の投資をし、ほぼ全ての設備機材を供給し、一方ブラジル側もそれに見合う資金と人員を投下して、まばらに牛が居るような全くの原野だったところに、生産能力五十万トン/年の近代製鉄所を計画し、建設を始めたのである ...

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