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実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(21)

 二人はこれは有ると直感した。ここで入手出来るなら、金には代えられない値打ちだ。でも足元を見られて法外の金を払うこともない。それに破損状況や何個あるかにもよる。
「物によるんだ。有るならとに角現物を見せてくれ。こっちの希望通りのものなら、カネはいくらでも払う」
 ゼーは二人を屋外の置き場ではなく、物置の方へ案内した。暗い中で部屋の照明のスイッチを入れるとパッと光るものが目に入った。
「あった。」
「オー、サントデウス!」
 まっさらの羽口が、しかも4個揃ってあるではないか。急に身体の力が抜けて、ヒザがカクガクした。
「新品では売るには具合が悪いからな。叩き潰して、スクラップにする筈だったんだ。本当はもう壊しているところだったが、他の仕事が立て込んでいて、今日まで手つかずにしてあったのだ」とゼーが言った。
「これさえ手に入れば文句はない」
 二人はゼーの言った金額を若干値切って、新品の羽口4個を手に入れた。
 取り引きを済ませ、荷物を積み替えたりしていると、意外に時間が掛かった。ピックアップ車には沢山は積めないので、マリオの所で入手した3個はゼーの店で預かってもらい、新品の4個を自分の車に積み込んだ。
 後は時間との競争だ。今ならギリギリ火入れ式に間にあう。
 『腹ごしらえ』も必要だ。途中の店でサンドイッチと飲み物を買い込み、三郎が運転してコンタージェンを出て、ベロオリゾンテを出るころには夜の9時を回っていた。もう二日もろくに寝てないし、満足の食事もとってないが、宝物を探し当てた二人のこころは満足感でいっぱいだった。
「いやー、見つかってよかったな。しかもぎりぎり必要な4個も無傷で見つかるなど、信じられないほどだ」
「本当だ、我々もがんばったが、きっと神様のお助けがあったのだろう」
 勝次は漠然と神様と言ったが、本当は日本を思いながら亡くなった父や母の魂が守ってくれたのだと思った。
 ヒタヒタと走る暗闇の中で、色白の優しい母の顔を思い浮かべた。あれほど故国のことを想い、自分の信念に忠実だった父の姿を想いうかべた。
「母ちゃん、父ちゃん、有り難う」
勝次は目をつぶった。

****************

 イパチンガまでの中間にあたるモンレバーデ(町)を通ったのは11時に近かった。ここまではアスファルト道で順調だった。
 そこから先は人家などのあるサンドミンゴ、デオニヂオを通る旧道と、製鉄所のために新しく山を切り開いて建設中の新道とがある。旧道は迂回しているので時間がかかる。新道は近道で早いが、切り開いたばかりの土肌の道でまだ正式の開通式も行われていない。勿論、舗装も照明などもない、夜は真っ暗闇になる。
 急ぐ二人は少し危険でも、新道を通ることにした。道は悪いが一時間もすればイパチンガにつける。運転は『大丈夫だ』という三郎に任せて、勝次は助手席についた。
 現地には、ベロオリゾンテの本社事務所経由「探していた物が見つかった。今夜発ち明朝までに現地に戻る」との旨を連絡してくれるよう依頼してあった。当時、市外電話は難しく、連絡などは電信、無線などを利用していたのだ。
「羽口がついたら皆喜ぶだろうなー。本当に良かったな!」

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