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JICA=日系社会ボランティア30周年=リレーエッセイでたどる絆=第6回=「何もないけれど全てがある」

ラーモス日本語学校で生徒や父兄と記念撮影(花を持って中央にいるのが大野さん)

ラーモス日本語学校で生徒や父兄と記念撮影(花を持って中央にいるのが大野さん)

「なにもないけれど、すべてがある」――赴任から約3か月が経った今、私がここラーモス移住地に抱いている印象です。
 私は南伯サンタカタリーナ州のラーモス移住地で日系日本語学校教師として活動しています。大学時代に留学したスイスで多言語社会と言語教育に興味をもち、日本語教師となりました。インドネシアで半年間のアシスタント教師をし、さて次はどうするかと考えていた時に知ったのがJICAの日系社会ボランティアです。
 これまで、ブラジルとは何のつながりもなかったですし、恥ずかしながら南米の日系社会についても、これっぽっちも知りませんでした。ブラジルへ来たのも、もちろん初めてです。そんな私が今ここに身を置き、活動していることを不思議にさえ思います。
 どういう力が働いてか、広いブラジルの中でも、たまたまこのラーモスで日本語を教えることになった私ですが、すでにこの地に強い縁と愛着を感じています。
 ブラジルに来てサンパウロでの最初の3週間、慣れない食事と街中での緊張感に、私は疲弊していました。ですが、ラーモスに来てからは皆さんが本当に温かく、丁寧なおもてなしで迎え入れてくださったことで心が解きほぐされる思いをしたのが3カ月前でした。
 コミュニティとしては小規模ながらも日本文化が色濃く残り、それを共通の財産としてつながり、守り育てているのがラーモス移住地。そんなラーモスを象徴する行事お花見会(例年はさくらまつり)が9月初旬に行われました。
 それまでお客さん気分の抜けなかった私でしたが、微力ながらに会場設営や売店のお手伝いをさせていただいたことで、ラーモスの一員に近づけた気がしました。そして何度も会場を見渡しては、日本から遠く離れた小さな村で、こんなにも多くの人が日本を楽しんでいることに感動していたのです。
 この地にはいつも、穏やかで優しい空気が流れています。気候のせいでしょうか、広大な自然のせいでしょうか、それともここに住んでいる人たちの温かさからくるものでしょうか。まだまだ知らないこともたくさんありますが、知れば知るほどこの土地の、そして人々の心の「豊かさ」を感じます。
 自宅から職場である日本語学校への道のり、ひたすらに広い空と牧草地しか見えない景色が30分近く続きます。
「なんにもないなぁ」といつも思うのですが、それでいて人を育て、文化を育てるためのすべてがここにはあるような気がしています。そんな豊かな環境で、子供たちの成長を見守りながら、私自身も成長していきたいと思います。


大野渚美子(おおの・なみこ)

【略歴】京都府出身。27歳。日系社会青年ボランティア・日本語学校教師としてサンタカタリーナ州フレイ・ロジェリオ市のラーモス移住地に今年6月赴任した。任期は2018年6月まで。

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