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サントス強制退去の証言=その日何が起こったのか=(7)=「この国の未来のために証言する」

橋本ルイス和英さん

 「子孫に伝えるために、自分たちが苦しんだこの事件に対して、政府に謝罪を求めることに賛成する」。連邦政府に対し、損害賠償を伴わない謝罪要求訴訟の運動を行うことについて聞くと、橋本ルイス和英さん(89、二世)はそう答えた。当事者として、この国の未来のために勇気を出して声を上げることの大切さを、よく理解しての発言だった。
 1943年7月8日に起こったサントス強制退去事件は、585世帯の日本人のうち約6割にあたる375世帯が沖縄県人だった。沖縄県人会の協力を得たため、取材した5人中4人は沖縄県人だったが、橋本さんは本州の両親の下に生まれた。
 退去命令が下された当時、橋本さんは13歳。両親と8人の兄弟と共に暮らしていた。その家で家族全員といる午後4時頃に、「明日の朝6時の汽車に乗れ」と口頭で通達され、皆パニックになった。
 急いでトランクに服だけを積めて準備した。母親は2歳の娘を抱え、駅まで向かった。朝6時頃に駅に着くと、日本人、ドイツ人、イタリア人が大勢いた。混乱の中、何かを考える余裕もなくサンパウロの移民収容所へ連れて行かれたという。
 「あの時のことはあまり覚えていない。父は退去命令が出た時とても心配そうだったのは少し覚えている。24歳だった長男には相談していたようだが、自分は幼く何も言われなかった」。
 収容所の後は、マリリアに移り住んだ。そこで学校に入学しようとしたが、「籍がない」と言われ、3年間も学校に通えなかった。「今考えてみればあれは差別だったと思う」と橋本さんは振り返る。当時は13歳だったが、学校に行かずに仕事をするしかなかった。
 戦後の1946年に「サントスに戻って良い」という知らせがあり、母親は子供の教育のためにサントスへ戻ることに決めた。しかし、町の中にあったはずの家は跡形もなく失くなっており、茫然とした。
 「この話は家族ともしていない。もう70年以上前のこと。今さら謝罪を求めることに自分は関心がなかった」。しかしその気持ちに変化が訪れたのは、子孫のことを考えた時だった。
 「強制立ち退きで出ていった人たちは、家などの財産を全て奪われた。それを子孫は誰も詳しく知らない」と事件の悲惨さを強調し、「彼らに伝えるために、政府に謝罪を求める運動をすることに意義はあると思う。だからこの取材を引き受けた」と語る。
 また橋本さんは、長い間ブラジル政府の管理下に置かれたサントス日本人学校を例に挙げ、「昨年全面的に返還された学校も、最初はこのような運動から始まった。その後何度も政府に交渉した。この事件も同じだ」と強い口調で語った。
   ◎
 連邦政府に謝罪要求訴訟を起こした奥原マリオ純さんと、その運動を支援するブラジル沖縄県人会は、「二度と同じ事件が起きないように」と今も闘い続けている。年明けには、先日ブラジリアの真相究明委員会へ赴いた時の様子を本紙で報道する予定だ。(終わり、有馬亜季子記者)。


□関連コラム□大耳小耳

 サントス強制退去事件の名簿を発見した松林要樹さんによる、サントス強制退去事件に関するドキュメンタリー番組『語られなかった強制退去事件』は、日本時間19日のNHK BS1で午後11時~11時50分(日本時間)に放送された。これはブラジルでは見られなかったとの話。だが多くの読者から問い合わせがあった「NHKワールドプレミアム」での放映は、ブラジル時間で来年1月3日午前11時半から。ぜひ見逃さずに視聴してほしい。

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