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安慶名栄子著『篤成』(13)

第7章  心の友 トラジリオ

 当時、私たちの家には真っ白な馬が一頭いました。その名はトラジリオ。子供の私から見ると、トラジリオはとても頭がよく、馬ではなくてほとんど人間だと思ったりしました。父もトラジリオが大好きでした。そしてマカコという小柄な黒いロバもいました。
 叔母の家やおばあちゃんの家まで行くときには私と兄がマカコに乗り、父がみつ子を前に、よし子を後にトラジリオに乗っていくのでした。
 そんなある日、みんなで出かけた時、かなり焦ってしまった事態が起こりました。セードロという小さな村の駅前を通りかかった時の事でした。セードロの駅前は、週末になると色んな所から人が集まり、買い物をしたり、友人同士で集まってビールを飲んだり、歓談をしたりしている場所でした。
 ちょうどその駅前を通りかかった時に、なぜかマカコが杭に繋がっている一頭の馬にちょっかいを出してしまった。びっくり。挑発された馬も怒ってすごい喧嘩になってしまいました。近くにあった店から何人かの男の人が走ってきて私たちが遠くへ吹っ飛ばされないように、マカコの上から即座に降ろしてくれたので、本当に助かりました。
 叔母やおばあちゃんの家へ遊びに行くことはただの散歩ではなく、すごい冒険でした。一回一回が私と私の兄妹達にとってユニークな、生涯忘れることがない経験でした。
 それぞれの旅で感じたこと、見た風景、味わった味覚や臭覚、いわゆる各自にとって貴重な思い出として今日この頃まで残っています。

第8章  心に残る教訓

 私の父は、時間の許す限り地面に座り、私たちを呼んで自分の周りに座らせました。全員が落ち着くと、父の口から賢明な言葉があふれ出てくるのでした。私たちに本当に心に残るお話をし、忠告や警句、道徳的教えとか、次元を超えたような言葉もたくさん伝えてくれました。飾り気のない、あっさりとした言葉で簡単な言い方でしたが、(だからこそ)普遍的な戒めだったのです。
「人から頂いたおかげに対しては常に感謝の気持ちを表し、どんな形にしろ、お返しをしなさい」。
「神様はあなたたちのすることすべてを見ておられる。なぜなら神様はどこにでも、いつでもあなたたちの中にもいるんだからね」。
「人の悪口は絶対に言うな。そして人を裁くのではない。壁には耳があるから」。
「人間には謙虚心が一番大切だ」。
 私たちはこのような言葉を小さいころから、いや、本当に幼いころから聞いてきました。私が最初に聞いて少し理解し始めたころには、壁のどこに耳があるかと探し回ったりしたのを覚えています。好奇心もありましたが、本当に誰かに聞かれていないだろうかと思いながら。
 そして父は私たちに歌も教えてくれました。そのほとんどは父が知っていた戦争の歌でした。

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