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50年ぶりの祖国で〝浦島太郎〟(16)=サンパウロ市 広橋勝造=半世紀ぶりの温泉で失態

温泉に入る男性客(acworksさん、写真ACより)

温泉に入る男性客(acworksさん、写真ACより)

 東京の友人が、彼のお母さんが手配してくれた箱根の温泉に連れて行ってくれた。彼のお母さんには50年前、移民船あるぜんちな丸の出航まで、2週間ほど世田谷区にあったお宅にお世話になった。優しい方だ。
 友人が運転する車で箱根に着き、ロープウェイやガスや湯気が立ち込める場所にあるお土産屋でゆで卵を食べたり、あちこち見て歩き、夕方前に温泉旅館に着いた。
 早速友人は「温泉だ!」、俺はもたもたして少し遅れた。彼には慣れた旅館で、すぐ俺の視界からいなくなった。シーズン外れでお客さんは少なく、まだ明るい時間で俺達独占の旅館みたいであった。
 チョット手間取ってから、旅館の浴衣を着て、湯舟に向かった。入り口に着いて中に入ろうと、のれんを潜ろうとした時、のれんに「女湯」と記されているのに気付き、変態男の濡れ衣から逃れる事が出来た。
 「男湯」はその奥にあった。50年間、人前で裸になった事がなかった俺は、公共の場で浴衣を脱ぐのに抵抗があった。ブラジルのホテルにも温泉プールはあるが、みな水着を着て入るからだ。だが、ここは日本だ。勇気を出して(チョット大げさ)脱ぎ捨てた。
 だが肝心の手拭いを忘れ、あそこを隠すものがなかったが、湯気が立ち上る湯舟に急いで入った。友人は既に湯舟でくつろいでいた。
俺「♪いい湯だな、ハハン、いい湯だな、ハハン、ここは○○、いい湯だな」
 昔聴いたドリフターズだか植木の歌を、半世紀ぶりになんとか思い出し、鼻歌交じりの上機嫌で気分を出してお湯に入った。
俺「湯舟で思い出したよ。ブラジルで毛ジラミを貰っちゃった時、困ったよ、湯舟が無くてね…。毛ジラミを絶滅させる為には冷た~い風呂にブルブル震えながら10分程度浸かるんだ。そうすると、毛ジラミが寒さに負けて、ぷぁ~と浮いてくるんだ。それを、2、3回続けると、やっと退治できるんだ…、これは一番いい方法で――」
 ついついブラジルでの体験談が口を突いて出てしまう。湯煙の向こうの友人に向かって、そんな話をしながら、ゆっくりを湯船に体を沈めた。
 改めて友人を見ると、「あっ!」友人ではない、見知らぬ人であった。
 その日本人は、俺がそちらを向くのとほぼ同時に、湯舟から飛び出して「さっ」と着替え室の方に走り去った。「あの客、2度とこの旅館に来ないだろうな」と思った。
 悪い事をしてしまった。てっきり湯気の中の野郎は友人だと思っていた。今から気を付けよう。もう遅いか…。

 

 

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