ホーム | 日系社会ニュース | 50年ぶりの祖国で〝浦島太郎〟(18)=サンパウロ市 広橋勝造=日本の〝不良少女〟とビール

50年ぶりの祖国で〝浦島太郎〟(18)=サンパウロ市 広橋勝造=日本の〝不良少女〟とビール

楽しそうにビールを飲む女性(acworksさん、写真ACより)

楽しそうにビールを飲む女性(acworksさん、写真ACより)

 20年ほど前、今の医療関係の仕事を始めた頃、9人のブラジル医師達を引率して日本の医療機器メーカー訪問ツァーを行った。短期の商用訪日だ。
 その時に日本でカルチャーショック事件が起きた。ブラジル人は必ず食事にはビールが必要だ。高級レストランを避け、気軽な街角の広いレストランに入った。ワイワイ、ガヤガヤ、ブラジル人が好む雰囲気だ。
 真面目な医師もいたが、異国に来た事で少し羽目を外してくれた。皆、美味しい食事に満足し、おつまみを少し注文してビールを楽しんだ。
 我々ブラジル人グループからそう遠くないテーブルに6、7人の少女がビールを飲んでいた。俺にはそう映った。他のブラジル人達にもそう映ったようだ。
ブラジル人A医師「広橋! ちょっと、あのなあ、あの後ろでビールを飲んでる少女達、不良じゃないのか?」
俺「さー、知りません。私もだいぶ日本を離れていたから・・・。今の日本の状況が分りません」
A医師「それにしても未成年で良く飲むじゃないか」
俺「ブラジル人ほどは飲めないですよ」
 ビールを飲むかモーテルで時を過ごすしかないブラジル内陸部のミナス州の首都ベロオリゾンテ市から来たR医師「ヒロ! 日本は少女にビール飲ませても良いのか?」
俺「勿論、ダメでしょう」
R医師「そうだろう」
T医師「でもなー、楽しそうに飲んでるじゃないか」
R医師「ヒロ、あの子達にビールをプレゼントしたいから通訳してくれ」
 俺の了解も受けずに、積極的なR医師はビールの飲みかけのビンを持って、少女達のテーブルに向かった。
 俺は慌てて後を追って「先生、ここは日本ですから」と止めたが、もう遅かった。R医師は少女達の雑談に入り込んでいた。
R医師「私はロベルト。貴女のお名前は?」
不良少女「私の名前? 『カガミ』(この発音はブラジル語で”私にウンコして”となる)です。貴方はロベルトさん?」
 酔った者同志だと、言語が違うのに、けっこう通じるのだ。
R医師「貴方たち未成年でもよく飲みますね」
 さすがにこれは通じなかったので、俺が通訳に入った。
カガミ「未成年? 違います。私達未成年ではありません!」
R「未成年じゃない? すみませんがおいくつですか?」
カガミ「私、30歳よ」
別の不良少女「私、27」
別の不良少女「私、32歳よ」
R医師「?????? 嘘でしょう。すみません。独身?」
かがみ「誰一人結婚していません。みーんな独身です」
R医師「独身!じゃー」、大きな声で「バーモス・ファゼー・チンチン!(チンチンしよう!=乾杯しよう!)」とポルトガル語で叫んだ。
 年取った不良少女達は全員真っ赤な顔になっていた…。
慌てて俺は、「チンチンって、ブラジルではグラスどうしが当たる音で、乾杯の意味です。男のアレではありません。誤解しないで下さい」と弁解した。
 だがその時、ブラジル式のクセで、ついついゼスチャーをいれて話してしまった。無意識に「男のアレ」と言いながら、ブラジル式のサイズを両手で示す動作をしてしまった。
 全く救われない俺…。完全に通訳失格だ。俺のドギツイ説明とドギツイ動作に、〝不良少女〟達は目のやる場所を失くしてしまい、うつむいたり、天井を見たり、お互い視線が合わない様に努力していた。
 思えば、20年前の時点で「俺はもう日本市民として、日本に住む資格はない様だ」と愕然としていた…。

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