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ブラジル最北・北半球の移住地タイアーノ(3)=インジオと結婚した噂の〃ナカムラ〃さん

2月24日(木)

  「へえー、アツノリと話が出来たの。あんた運がいいねえー」
 脱耕する仲間たちを最後まで見送り続け、七一年にタイアーノを後にした秀島さんは驚きの声を上げた。最後までー、といっても家族単位の話で、現地人と結婚してタイアーノへ留まった準二世がいたのである。
 今回の取材中、まだひとり日本人が住んでいる、という話を聞いた。
 カボクロになってしまって日本語も忘れてしまっている。日本人が来ると姿をくらましてしまうー。インジオの娘と結婚した〃ナカムラ〃こと中村篤徳氏である。
 西部アマゾン日伯協会の村山会長も一度現地を訪れている。「二十年くらい前かな、逃げちゃって結局会えなかったよね」。援協の巡回診療なども受けたことはないという。
 ボア・ヴィスタ郊外で養鶏業を営む辻一夫氏は、二度ほど〃ナカムラ〃を雇ったことがある。
 「トラクターも使うしね。白菜なんか上手く作ってたよ。でも、パシエンシアがないのかなあ、窮屈なんだろうね。二回とも、ちょうど一年たったら、辞めちゃう。ペスカしてピンガ飲むのが好きなんだよね」
 佃さんはインジオの娘の父親と話したことがあるという。「日本人は働くと聞いていたが、うちの婿は働かん」
 今回の訪問には、ボア・ヴィスタ近郊で大豆栽培を手がける田中パウロ氏(33、ミナス州出身)に協力頂いた。後で聞くと「噂でしか知らないから気になっていた」とのこと。
 グラン・サバンナとよばれる草原地帯を西北九十キロのタイアーノへ向かう。まるでキリンや象がいそうな風景にブリチー(ヤシの一種)が奇妙なアクセントを与えている。
 時々、スピードを緩めなくてはいけないのは、道幅の半分しか作られていない橋を通るからで、最近も夜間に走っていたトラックが川に落ちたという。
 ロライマに点在する密林地帯にあるタイアーノに近づくにつれて、平坦なアフリカの風景から起伏の激しいジャングルへと変わる。土も薄茶色からテーラ・ロッシャへ。
 人口千五十人、と書かれた連邦政府の看板が目に入る。ヴィラ・タイアーノ。中心にはロータリーがあり、かつて植民地管理事務所があった付近の村民に〃ナカムラ〃のことを尋ねる。
 「そこにいるのがその日本人の息子だよ」と東屋風の建物に座っている青年を指差した。十三人の子供を持つ〃ナカムラ〃の四人目の息子、中村マリオさん(32)である。
「親父なら、家にいると思うよ。ばあちゃんの墓はここの近くにあるよ」
 聞けば、家はタイアーノの中心からすぐ近くだが、雨が降ったため、車では通れないという。田中氏と顔を見合わせていると、遠回りになるが八キロほど迂回すれば行けるらしい。久しく車の走った様子のない農道を走る。
 この周辺がかつての日本人移住地。背丈以上の草がうっそうと茂り、今ではピメンタのエスタッカがその名残をかすかに残すのみとなっている。
 鉄条網の柵を三つほど超え、数十頭の牛が道をさえぎる。周囲は全くのジャングル。こんなところに人が住んでいるんだろうかー、不安が頭をよぎる。突如、ヤシの葉と板葺きの家が現れた。

■ブラジル最北・北半球の移住地―タイアーノ(1)=ロライマ州唯一の入植地昔、雨季には町まで10日

■ブラジル最北・北半球の移住地―タイアーノ(2)=正月は一度も祝わず 野菜作るも需要なし

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