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ゴーーール ビールを飲む→の循環

グルメクラブ

4月1日(金)

 ビールを飲む→塩っ気の強いつまみを食べる→血圧、にわかに上昇→気炎が上がる→どちらかと言えばひいきのチームが得点→ゴーーーーーーーーールっと(心の中で)叫んでみる→最初に戻る。
 バールや居酒屋でサッカーのテレビ中継を観戦しているとき、わたしの身体は原則的にこの流れに従って行動している。でも、自宅ではほとんど見ないし、スタジアムに足を運んだ経験も過去に三、四回。だから、サッカーも、言ってみれば酒のつまみに過ぎないのだけれど。
 試合のある日曜日のバールは、わたしのようなエセも含めたサッカーファンでにぎわったりしているけれど、サンパウロでも指折りの生ビールを提供するバー・レオ(アウロラ街100)は、残念ながら休みだ。その理由がメニューに書いてある。「日曜日はコリンチャンスの試合があるから!」。日頃忙しくてじっくりと観戦できないコリンチャーノの店員を思いやっての休日というあたり、いかにもこの国らしい。一般に客足の鈍い月曜を定休にして、日曜を営業日にすれば、売上げの大幅増も望めるのではと考えてしまうのは私だけか。
 レオ特製のカナッペやボリーニョ・デ・バカリャウを口中いっぱいにほおばりながら、ゴ、ゴホォホホールっと言ってみたいのに。コリンチャンスの元オーナー、故ヴィセンテ・マテウスがこよなく愛し通ったバーだそうだ。ティモンをしっかり応援して、故人を弔う意味も、日曜定休の背景にあるのかもしれない。
 三月十八日付タルデ紙付録のレジャーガイド「ディヴェルタ・セ」が、サッカー応援に最適なバーやレストランを紹介していた。コリンチャーノのロメウとパウメイレンセのジュリエッタ二人の恋物語を描いたコメディー映画「オ・カザメント・デ・ロメウ・イ・ジュリエッタ」公開に合わせた好企画だった。
 パウメイラスの前身はパレストラ・イタリア。ジュリエッタの家族も生粋のイタリア系だ。ということで、同誌推薦のレストランは一九五八年創業のピッツァリア「エスペランザ」(トレーゼ・デ・マイオ街1004)と、パウメイラス関係の歴史的な写真が店内の壁を飾る同「イ・ヴィッテローニ」(コンデ・シルヴィオ・アウヴァレス・ペンテアード街31)。昔風のぶ厚い生地が特徴の前者ではパルメジャンチーズ、バジルの葉、トマトの、イタリアンカラーが目に鮮やかな伝統の「ナポリターナ」が、おいしい。斬新なピッツアがウリの後者は、イタリア独特の食材を生かした品が充実している。
 ロメオは、応援団長も務める筋金入りのコリンチャーノという設定だ。なのに、ジュリエッタの両親に自分もパウメイレンセだと宣言してしまうことからドタバタ劇が始まる。アルゼンチン人の選手とコーチを獲得して話題をさらったコリンチャンス。タルデ紙はそんなチーム事情を踏まえて、タトゥアペ、モッカ両区のアルゼンチン料理レストランを紹介している。タンゴショーが名物の「ブラシア・パリジャ」(アセヴェド・ソアレス街1008)のビュッフェ・デ・ショリッソ(ロースステーキ)は本場に負けない食べ応えだ。最近オープンしたばかりの「ラス・グアルダス」(ジョヴィニアノ・ブランドォン街225)は、オッフォ・デ・ビッフェ(リブアイ=ロースでも骨に近い部分)などの珍しい部位もそろえている。
 この他、スタジアムそばにある飲食店もきっちり押さえて取材。両チームに関連する本や映画に言及したり、「コリンチャンス/パウメイラスのファンである条件」を著名人に語ってもらったり、短いながら興味深い記事に仕上げている。パウメイレンセの集まるペルジゼス区の「バー・ド・エリアス」(ディアナ街149)。店主の息子のエピソードが秀逸だ。「忘れもしない。あれは一九九三年十二月十二日。オレはカノジョとパウメイラス対コリンチャンス戦を見に行った。試合はパウメイラスが勝利……。一家でコリンチャーノのカノジョは憤慨し、モルンビー球場からタクシーで帰った。オレを置き去って!」。映画さながらの一コマだ。
 サッカーマニアにお薦めしたいのは、モッカ区の「エリディオ・バー」(イザベル・ディアス街57)だ。サンパウロの有力チームに所属した選手たちの過去の写真や、ユニフォームなどのグッズで埋め尽くされた〃空間恐怖症的〃インテリアは文化財に値する。主人エリディオさんはサッカー史の生き字引的存在。ブラジルサッカー映画の決定版、ウゴ・ジョルジェッティ監督「ボレイロス」(一九九八)は彼なくしては完成しなかったとも。
 サラダ、魚介類、ハム・ソーセージ……酒菜がずらりと並ぶカウンターも見物だ。素材の九割はカンタレイラ街の市営市場で購入されたもの。「牛の脳みそのミラネーザ」「ヴェネツィア風レバー炒め」といった内臓系が目立つ看板料理は通好み。中でも、近所に住んでいるポルトガル移民が手作りしているというソーセージ、アリェイラを揚げた一品が、いい。塩辛い上、脂肪分も強いが、もう一つ食べたい、さらにもう一つと思う、居酒屋料理の王道を行く味だ。一口齧れば、ビールを飲む→の循環が始まる瞬間だ。

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