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医薬品目的の研究進む=深海資源探査=国内価値数十億レアル=無秩序な開発に批判も

健康広場

2005年8月24日(水)

 海の底にはまだ、知られていないユニークな動植物が少なくない。深海資源を医薬品に利用しようという動きが、世界的に活発化。メキシコ湾の海綿から抽出した物資に、抗がん作用があることなどが注目を集めている。〃海の宝〃は国内で数十億レアルの価値があるとみられ、大学・研究機関で医薬品の研究・開発が熱を帯びていきそうな勢い。ただ無秩序な深海探査は生態系の破壊につながりかねず、国際的な枠組みづくりも求められそうだ。

 ■海洋動物から抗がん剤
 「将来を約束された薬です」。腫瘍(しゅよう)学者ジウベウト・シュワルツマン氏は言い切った。
 ファルマ・マル社(スペイン)はジョンソン・ジョンソン(アメリカ)と提携。海底動物のほやから抽出した物質を基に、抗がん剤を開発中だ。シュワルツマン氏はリオ・グランデ・ド・スル州で六人に臨床試験を行い、効果を確認した。
 今年末までに、欧州と米国で販売許可を申請。発売は〇六年になる見込み。同社はこれまで、海洋資源を使った医薬品の研究・開発に二億千六百万ユーロを投資している。
 海洋資源を原料とした医薬品で知名度が高いと言えば、「シタロビナ」(citarobina)。カリブ海沿岸に生息する海綿がつくる有毒物質から採取したもので、白血病やリンパ腫の治療に実用されている。
 このほか深海の微生物などから抽出された物質が遺伝子解析用の酵素や、紫外線や熱から皮膚を守るための化粧品の原料などに利用され、特許の対象になっているものも少なくない。
 ■ブラジルの研究・開発状況
 国内の大学・研究所も新たな海洋資源獲得に駆り立てられている。
 生化学者マウロ・パヴォン氏らリオ連邦大学の研究チームは、血小板凝集抑制物質がトゥニカードから得られるという調査結果を発表。心筋・脳梗塞(こうそく)など血管病予防薬の製薬に弾みをつけた。
 調査はまだ、動物実験の段階だ。パヴォン氏は「市販されている医薬品に比べて、副作用も少ない」と保証。炎症を緩和したり、がんの転移を食い止める能力があるかについて、研究を重ねる考えだ。
 サンパウロやナタウの研究者によれば、マグロの皮膚やエビの頭も、トゥニカードと同様の作用を示すという。深海生物と異なり手に入れやすいから、製薬向けの第一次資源として良好の供給源になるはずだ。
 エリゼウ・ドス・サントス氏(リオ・グランデ・ド・ノルテ連邦大学)は「いずれも水産業で加工残滓として廃棄されているものだ」と語り、環境保護にもつながるという。
 淡水魚も医薬品開発の研究対象だ。パクやタンバキなどの粘液が、シャーガスや寄生虫症に有効であることは、動物実験で証明済み。オズワルド・クルース研究所は今後、結核菌への作用も調べる。
 ■環境破壊への懸念
 水産資源の中には深海生物といった漁獲の対象となっていない生物や海洋微生物など、未利用の生物が多く存在。海山や熱水孔で珍しい生物が確認されている。公海の深海底での開発行為や資源探査活動を規制・管理する国際的な制度はほとんど存在していない。
 そのため医薬品目的の探査活動などが、生態系を脅かす恐れがある。国連大学高等研究所(本部・横浜)は先ごろ関連報告書をまとめて、国際ルールの確立を呼びかけた。これに対して、日本のメディアも結構大きく報じていた。
 ブラジル内でも、環境破壊への懸念は少なくない。サントス氏は「資源を賢明に使わないと、貴重な種を絶滅させしてしまう」と危機感を募らせる。高齢化の進行で血管系疾患を予防する医薬品の需要は増すだけに、早急に法整備を行っていかなければならない。
 海洋資源に関するヨーロッパ会議が九月にパリで開かれ、医薬品の進歩について報告される見込み。生物多様性の保存まで突っ込んだ議論がなされるのだろうか。

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