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広島原爆投下から始まる謎=麻野涼小説『空白の絆』

元パウリスタ紙記者である著者の最新作

元パウリスタ紙記者である著者の最新作

 元暴走族総長という異例の「肩書」を持つやり手弁護士、真行寺悟を主人公にした長編書下ろしサスペンス、シリーズ第2弾『空白の絆』(麻野涼、文芸社文庫)が8月に刊行された。個性的な登場人物によるスピード感あふれる展開で、意外な事実が次々に明らかにされ、一気に読ませる小説になっている。
 関東最大の暴走族ブラックエンペラーと最後まで抗争を続けた紅蠍の総長だった真行寺が主人公。当時の仲間の一人、峰岸孝治は、大手家電メーカーY電機の主要部品供給会社「峰岸工業」現社長の次男だ。
 孝治の祖父である創業者・聡太郎は広島市への原爆投下時に抱えた宿命を起業の原点に持ち、誰にもそれを言わずに東京でその会社を育て上げた。
 現社長、孝治の父の死期が迫る中、次期社長の座を巡って、投資ファンドと某役員が暗躍する動きが強まる。彼らは孝治の兄を次期社長に推すと同時に、対立社長候補である叔父の血筋を「愛人の子ども」とする怪文書や、「不正給与」問題などの怪情報を流す。
 そんな相続争いがマスコミによってスキャンダラスに報道される中で、峰岸工業は経営危機に陥る。社主家族の直系にも関わらず「真昼のLED」と綽名されるほど会社で存在感のない孝治だったが、否応なく創業時の「謎の空白期」を調べざるを得なくなる。
 その空白期とは、祖父・聡太郎が長男の出生証明書を終戦の日、玉音放送の直後に広島市役所に出していた事実から始まる。しかも長男の誕生日は原爆が投下された8月6日。そんなことは可能なのか――。
 「暴走弁護士」真行寺や、現在は愛乃斗羅武琉(あいのとらぶる)興信所の代表で、元レディース紅蠍の総長・野村悦子ら実に個性的な登場人物が、独自のネットワークを使って原爆投下直後の広島に隠された過去を次々に洗い出していく。
 元パウリスタ新聞記者だった著者だけに、ブラジル・レストランNossAというレストランが出てきたり、移民の物語りがさりげなく差し込まれ、ブラジル在住者には余計に興味深い小説になっている。

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