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コラム 樹海


 老眼鏡。若い頃は笑ってはいたが、歳を重ねるに従い無くてはならない物の一つになってくる。新聞を読むのにも雑誌を見るのも、この魔法のような物をつけないと活字が霞んでしまいお手上げなのである。だが、老眼を使い始める年頃になると、若い世代では見落としがちになりがちな諸物が見へ始めるから奇妙ななものだ▼野の花や路傍に咲く小さな蕾みに関心を寄せるようになるのもお年寄りの方が多い。自然と親しむ─風流と言うべきか、こうしたところに心が向くのは目に衰えを覚える頃になってからというのも不思議なことだ。若い人は歩くのも仕事もてきぱきと速い。寺田寅彦は「要領のいい人は速足の旅人」と語ったそうながら「人より先に到着できる代わり、道ばたの肝心なものを見落とすのだ」と続く─▼どうやら、こんな傾向は万人に共通するものらしい。若くとも盆栽に凝る人もいるし、山や森の生きとし生けるすべてに熱い眼差しを注ぐ向きもいるがこうした人々は稀と言っていい。あるいは偏見かもしれないけれども、自然との親しみには老眼がよく似合うし「サマ」になってもいる。中国では老眼鏡を「花眼」(かがん)と呼ぶ。花の眼とは美しい▼漢字の本家では「花」に「霞む」の意味があるらしい。ならば、花の眼もよくわかる。これも老齢をいう自然の理を長い歴史を掛けて観察して生まれた言葉に違いなく、花眼の人だけにしか見えない森や野原は厳然とある。と、そう想いたい。   (遯)

03/03/13

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