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 九月七日はブラジルの独立記念日。イピランガの丘でドン・ペドロ一世が「独立か死か」と叫んだとされるのは、後世になってからつくられた虚像に過ぎまい。が、この国の独立を決断した大英雄とされ波瀾万丈の生涯を送ったの事実だし「色好み」としてもよく知られる。それにー。この皇帝ほど強運に恵まれた人も珍しい▼今はともすると民主的で解明的な君主と見られがちだが、実質は超保守の専制君主と見た方がいい。皇帝になってからの憲法制定を巡る政界の騒動を見ても、ドン・ペドロ一世の王制維持に傾けた熱情は理解に苦しむほどに激しい。こうした変質的な性格がブラジル追放の大きな要因となったし、彼の評価を低くもしている▼皇帝の正室はオーストリア王女のレオポルジーナだけれども、大のつく女好きでもある。中でもサントス侯爵夫人は当時の政治を左右するほどの大騒ぎを演じている。独立宣言した夜にサンパウロで歓迎のオペラが開かれたときに見初めたそうだが、その熱の入れようは大変なものと歴史は書く。二人には五人の子があったらしいけれども、三六歳で亡くなった皇帝は記録に残っているだけでも子供が十八人▼と、まあ艶聞はいっぱいある。けれども七日は「独立の日」である。イピランガに聳えるあの独立記念塔はブラジルでは最も威厳があるし馬上で剣を掲げて「独立」を宣言するドン・ペドロの勇姿は雄々しい。あれは独立記念一〇〇周年の一九二二年に建立されたものだが、あの地下室にはドン・ペドロ皇帝の遺骨が今も静かな眠りについている。(遯)

03/09/06

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