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運命よりも因果応報=盛和塾ブラジル10周年=人生哲学1200人が聞入る=稲盛和夫氏市民フォーラム=「生まれた時より美しい魂で死ぬことが生きる意味」

9月9日(火)

 盛和塾ブラジル十周年記念市民フォーラム(稲盛和夫塾長講演会)「人は何のために生きるか」が六日午後五時から、文協大講堂で開催され、千二百人が真剣に聞き入った。運命と因果応報の法則を四百年前の中国の本を引用して解説したり、宇宙の生成と「気」の関係など論じたり、最後は仏教の六波羅蜜を説くなど、一時間半にわたる奥深い人生論に、聴衆からは万雷の拍手が送られた。

 当日は日本各地の盛和塾から七十四人が駆けつけ、同塾ブラジル十周年を祝った。冒頭、板垣勝秀代表世話役は「塾長のすさまじい努力と経験に支えられた哲学が、国境や文化を越えて今語られます」と挨拶した。
 京セラ名誉会長、稲盛和夫氏(七一、鹿児島県)は「旧制中学に二回すべり、十二、三歳で結核にかかり、志望大学にも落ち、なんとか就職した会社は赤字続きのボロボロのところでした」と自己紹介、「田舎育ちのどこにでもいそうな青年だった」と回顧した。
 「いっそのこと、インテリヤクザにでもなろうか」と考えたことさえあったと告白する。ところが、開き直って真剣に取組んだファイン・セラミック研究が成果をあげ始めたことから人生が好転、若い時から運命や因果応報について考えてきた。人類、国家、地域、家族などの大きな運命の中に、自分の運命が縦糸としてあり、横糸として、良いことをすれば良い結果が生まれるという「因果応報の法則」があると説く。
 「現実の人生には、悪いことをしても有名になり、お金持ちになって羨ましい生活をしている人がいる。因果応報の法則に疑問を持った時期もありましたが、これまでの人生生きてきて三十年、四十年という長期的な視点にたてば、大体は法則の通りになってきている」という心境に至ったことを述べた。
 四百年前に中国の袁了凡(えん・りょうぼん)が書いた『陰隲録』の例え話を引用。幼い時に旅の老人から自分の運命の詳細を聞き、その通りの人生を歩んできた了凡青年が、ある時、禅寺で老子に「運命は宿命ではなく、変えることができるのです」とさとされた。気持ちを入れかえ、妻と共に老師のいう通りに「世のために良いこと」を続けた結果、運命として諦めていた子宝にも恵まれ、長寿を迎えることができた。
 「運命よりも、良いことをすれば良い結果が生まれるという因果応報の法則の方が力が強い」とし、それゆえに、心を高める努力を精一杯しなければいけないと説く。ただし、良いことをしても、運命の大波が悪い方向に向かっている時には、すぐに結果が出るわけではなく、長いスパンで見なければいけないとする。
 肉体は死んでも魂は永遠に残ると語り、「生まれた時より、死ぬ時にはより美しい魂になっていなければ、生きた意味がない」という。宇宙の生成を科学的に解説する中で、「宇宙には全てを良き方向に生成発展させる〃気〃があり、自分が善き思いを持った時に、宇宙の気の流れと同調できる」と説いた。
 最後に、仏教の六波羅蜜(布施、持戒、精進、忍辱、禅定、智恵)が心を高める心構えであるとし、他人のために良くすること「利他」こそ、商売においても最も重要なことだと語った。「たった一回しかない人生、素晴らしい人生を生きていく義務があります」。
 一時間半の講演はあっという間に過ぎ、大講堂を埋め尽くした聴衆からは、万雷の拍手が沸き起こった。前代表世話役の谷広海さんが謝辞に立ち、「移民百周年の時には、ぜひもう一度来て頂きたい」と熱いメッセージを送った。

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