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JICA等主催の環境セミナー=自然資源の保全を議論=森林の激減、土壌の流出

11月25日(火)

 国際協力機構(JICA)など主催の環境セミナー「水・土・森――自然資源の保全と回復」が十九日、サンパウロ州立大学アシス校であり、行政関係者や研究者、学生、農業従事者ら約三百三十人が参加した。同セミナーはJICAが一九九二年から五年間、サンパウロ州森林院に技術協力、その後、〇二年から二年間の予定で行なっているアフターケア協力の成果を発表するもので、日本の独立行政法人「森林総合研究所」から斉藤昌宏・企画調整部上席研究官、落合博貴・水土保全研究領域治山研究室長、安部和時・同山地災害研究室長が専門家として招かれた。日伯両国の研究者が植生回復、土壌浸食防止などについて、白熱した討議を繰り広げた。
 セミナーは十九日午前九時から開会式があり、続いて、サンパウロ州森林院の現状説明。一九五〇年には州の八割が森林だったが、農地開発などで九〇年までに六%へ減少、現在は若干ながら増加の傾向にあるという。
 JICAプロジェクトの植生回復分野のカウンターパート(現地共同研究者)、森林院のジゼウダ・ドゥリガン氏は、セラード地域の植生を分類、マニュアルを作成して各土壌に適応した樹木の供給が可能になったと報告。アシス試験場では「アンジッコ・ド・セラード」、「ビニャチコ・ド・カンポ」など計百二十種のセラード地域在来樹木の種苗を栽培している。九四―〇三年にアシス試験場の苗で植林されたのは三五〇ヘクタール、七十万本、うちプロジェクトの植林面積は、約八〇ヘクタール、十四万本という。
 また、ドゥリガン氏は土壌浸食に関して、土地利用別土砂流出試験を行い、一時間の雨量三八ミリで裸地五〇〇〇〇グラム、さとうきび畑二〇五・三グラム、林九・七グラムの浮遊土砂量が確認されたと報告、森林の重要性を訴えた。
 同じく森林院のエリアーネ・アキコ・ホンダ氏は浸食防止分野の研究成果を発表。各月の降雨量を比較し十月以降、特に一、二月が浸食を起こす時期とした。
 日本の専門家、落合氏は土壌表面の状態別の侵食流出を調査、裸地に針葉樹の落葉と広葉樹の落葉を用いて比較したところ、広葉樹の落葉がある土地の方が表面の粗度が上がり、土が流れにくくなったとして、森林の侵食防止への役割を力説した。安部氏は、アグア・ダ・カショエイラ地域のデータを土壌消失推定式にあてて浸食度を計算、六二年に比べ九三年は土砂流出量が増えたと断言した。
 そのほか、各地で農業技術トレーニングや指導者育成を行なう団体が水源地の保全を訴えていた。JICA職員は、「研究者だけではなく、実際に農業に従事している人、現場にいる人たちが、森林の重要性を再確認することが大切」と語っていた。
 セミナーにはマリア・セシリア・ウエイ・デ・ブリット森林院総裁やギウマール・オガワ環境警察第一大隊指揮官中佐、JICAから小松雹玄支所長、聖総領事館から山口克己領事らが出席した。
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 JICAは九二年から五年間、「森林・環境保全研究計画」プロジェクトを実施。同期間中に長期九人、短期二十人の専門家を派遣、土壌水分測定装置、自動水質測定装置、表面浸食流出土砂計測システムなどの機材に約二億千七百万円、研究システム土木工事など現地業務に約一億四千万円を供与した。アフターケアでは現在までに短期専門家八人を派遣している。

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