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近年の日本文学出版ブームに足かせ=日ポ翻訳者が足りない=(下)=大江健三郎全集の計画も=日本文学データベースを

12月3日(水)

 国内の文学出版最大手カンパニア・ダス・レトラス社では、「読者の成熟が進み、日本文学への需要が高まっている」として、大江健三郎全集を出版する希望を持っている。すでに谷崎潤一郎の『鍵』、三島の『金色』、大江の二作品など、この四年間で六作品を出版し、今後五作品を上梓する予定だ。
 編集アシスタントのセルジオ・テラローリさんは「成熟した読者は、英語版からの訳でなく、日本語からの直訳を求めている。今の出版ペースは理想と異なる。もっと早いペースで出していきたいのだが」と残念がる。
 「イタリアやドイツの政府機関も、自国本の翻訳助成をしている。日本文学が根を下ろしつつある今、もっと日本も積極的になってもいい」とする反面、自身が十五年間翻訳業をしてきた経験から、「それ専業でそれなりの糧を得るのは不可能だと思う。英、独、仏の翻訳業界を見ても、それだけ生活している人はほんのわずか」と業界事情を吐露する。
 サグラード・コラソン大学出版部のルイス・カスチーリョ・ヴェッシオさんも「我々には情報が少なすぎる。そのため日本の歴史一つとっても、えてして米国出版物というフィルターを通したモノの見方をしてしまう。第二次大戦の原爆についてもそうだ。米国側歴史観を中高校向け教科書へ反映させている現状が、本当に正しいのか? 日本側の考えを検証して、より中立的なものにしたいのは山々だが…」と嘆く。
 「例えば日本移民百周年を記念した出版シリーズを考えたいが、日本でどのような本が出ているのか分からない。ブラジル人大衆に関心が持たれるような出版物のポ語リストがあれば、どれだけいいかと思う」
 ヴェージャ誌で書評を書くカルロス・グライエビさんは「我々が記事を書く時の情報があまりに少ない。谷崎の『卍』がでた時も、他国作品に比べて相当時間をかけて調査したが、満足いく情報は得られなかった。日本の文学・歴史・出版事情についてのデータベースを作って公開してほしい。しかめっ面して読むような重厚な情報でなく、気軽に手軽に読めるような情報が必要だ。日本語専攻の大学生らが協力してそのようなサイトが作れないものだろうか」と提案する。
 さらに「ブラジルで紹介されている日本文学には二つの空白がある。一つは女性作家、そして夏目漱石。ぜひ今後、これらも視野にいれてほしい」と要望した。
 最後に、エスタソン・リベルダーデ社のボジャジセンさんは「翻訳コンクールというのは実現できないだろうか。仏語文学でも既に実施されている。日本企業などが五千とか三千とかの賞金を出してくれれば、いい奨励策になるのでは」と提案した。
 また最近、和ポ辞典『Michaelis』を出版した脇坂勝則さんも「翻訳作品を何百部か国際交流基金が買い上げ、公立図書館や教育機関に無償配布するような形の出版助成はできないだろうか」と提言した。
 同交流基金の高橋ジョーさんは「出版プロジェクトがあれば、どんどん基金に助成申請してほしい。もちろん全てに応えられるわけではないが、翻訳出版需要の高まりを日本側に伝える意味でも、申請数が増えたほうがいい」とコメントした。
 最後に、コーディネート役のナガイ・ネイジUNESP文学部教授は、今回提言された内容をまとめ、日伯の関係諸機関に送付することを申し合わせた。

■近年の日本文学出版ブームに足かせ=日ポ翻訳者が足りない=(上)=UNESPがシンポ開催=もっと大学に養成講座を
■近年の日本文学出版ブームに足かせ=日ポ翻訳者が足りない=(下)=大江健三郎全集の計画も=日本文学データベースを

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