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東方に生きる~ウルグアイ日系社会事情(3)=町おこしソバ栽培手助け=オイスカの三上さんら

12月5日(金)

 それぞれの町で特産品をーー平松守彦元大分県知事が提唱したことで知られる「一村一品運動」。このアイデアを元に、オイスカ・ウルグアイ総局は一九九六年から各県に一つの特産品を育てようと「一県一品運動」に取り組んでいる。
 モンテビデオ県の隣に位置するソリアノ県サンタルシア市で、日系人と手を携えながら、ソバの普及に取り組むウルグアイ人がいる。同市でパスタ用の麺を製造販売するフェリペ・ホフェンテスさん(六〇)だ。
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 首都モンテビデオ市から車で走ること約一時間。一面に広がる大草原の中に、位置するサンタルシア市は、人口約一万八千人の小さな町だ。セントロにはこじんまりとしたプラッサと教会があり、日系人の姿は目に付かない。
 一見、日系社会とは無縁なこの町は、「SOBA」を町おこしの起爆剤として期待する。
 その中心となるのが、フェリペさんが営むパスタ店「ラス・デリシアス」だ。スパゲティやニョッキなど通常の麺に加え、今年十月から新たな看板商品を店頭に並べ始めた。
 「タマゴ入り」「ホウレンソウ」「セモーラ」――カウンター内に並ぶスペイン語の商品名に「SOBA」の文字。その脇に添えられた「そば」の日本語がなければ、パスタの一種と間違えてしまいそうなほど、欧州生まれの麺の中に溶け込んでいる。日本で売られているソバと異なり、白色が強いのもその一因だ。
 自らが試行錯誤して商品化したソバを愛おしそうに手にするフェリペさんは「こいつが好評なんですよ」と笑顔を見せる。
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 町おこしに頭を悩ます同市関係者が、一県一品運動を提唱するオイスカ・ウルグアイ総局国際理事の三上隆仁さん(七八)に相談したのがきっかけだった。三上さんは二〇〇〇年に同市内のホテルで、茹でたソバの試食会を実施。麺作りの専門家、フェリペさんは初めてソバと出会った。
 「想像していた以上に、おいしかった。何より健康食品としてアピール出来ると思ったんだ」とフェリペさんは、可能性を見いだしていた。
 同年十一月、オイスカ・ブラジル総局が提供したソバの種、約三百グラムを自らの畑に蒔き、植え付けが始まった。
 ただ、フェリペさんは麺作りの専門家。栽培で大きな役割を果たしたのが、ウルグアイ在住の日系人、飯原孝徳フェリペさん(五八)だ。飯原さんの父は、パラグアイから再移住してきた日系社会最年長の農夫さん(八五)。飯原さんはパラグアイ生まれの二世だ。
 ラ・コルメーナ移住地時代にもソバの栽培を経験したことがある飯原さんもまた、「暑いパラグアイと違って、ここは気候が日本に近い。うまくいくと思った」と手応えを感じていた。
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 「ソバの実を手にした瞬間、これはいい麺が出来る」と思いました。十五歳で麺作りの道を歩み始めたフェリペさんは、最初の収穫をこう振り返る。
 ただ、パスタ造りの要領では商品として耐えうるソバは出来なかった。日本のように、山芋をつなぎとして使えないため、麺がすぐに切れてしまう。上質のソバ粉を、どう生かすのかーーフェリペさんが出した答えは、パスタ用ではなくパン用のグルテンを用いることだった。
 十月に新たに並んだ「新顔」は、すぐに町でも評判となった。高血圧やコレステロールによいという特性が近年、健康志向にあるウルグアイ人にアピール。また、同市出身のモデルが、ソバを気に入ったという評判も追い風となった。
 「すぐ売り切れるので、週末にしか出せないんだよ」。フェリペさんは嬉しい悲鳴を上げる。今は、夏ソバの収穫を心待ちにする毎日だ。
 「ウルグアイでもソバが受け入れられると確信を持った。私以外のパスタ屋にも広げたいよ」。すでに、ソバ専用の製粉・製麺工場を設ける予定だ。
 「三上さんや飯原さんには本当に感謝しているよ」とフェリペさん。
 日系人が蒔いた「町おこし」という名の種が、ウルグアイ人によって広がっていく。
 (つづく、下薗昌記記者)

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