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■ひとマチ点描■ピンガは追憶の味?!

12月10日(水)

 その樽は日本人大工が作った。サトウキビを搾る機械は米国製。モーターは英国からの輸入品だ。
 リベイラ川のほとり、桂植民地に残る西舘武保さん(七五)のピンガ工場を見学した。かつて植民地の主要産品だったサトウキビ焼酎。一九二〇年代から四〇年代にかけて、その最盛期を迎えるが、今日まで作りつづける日本人は西舘さんをひとり残すのみだ。
 運搬用の船が倉庫でほこりをかぶって眠っていた。年間の生産量が三万リットルに上った時代に活躍したそうだ。一九六五年ごろを境に植民地が息吹を失うにつれて、出番もなくなった、という。
 「最近は一万リットルも作っていませんから。基本的には住み込みのブラジル人家族に任せています」
 西舘さんのピンガは『バンデイランテス』の名前で販売されている。イグアッペ市街のバールの棚にも並んでいた。サンパウロ州南岸地域ではおなじみのメーカーだ。
 いまの卸価格は一ダースで三十レアルほどだが、「昔はこれで子供三人を大学に入れたからね」。   (大)

 

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