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卒寿でなお悠々現役=好きな酒、タバコ今も=サンパウロ日伯援護協会会長・実業家 和井武一

新年号

04年1月1日(木)

 喜寿、米寿の坂を軽々と越え、卒寿にしてなお現役活動ー。まさに人生の達人といえるのが和井武一サンパウロ日伯援護協会会長や大竹富江画伯、植物学者の橋本梧郎さんたち。いずれも現在九十歳。社会福祉、美術、博物学と取り組む分野は異なるが、ライフワークを究めようという姿勢からは常に青年のように若々しい情熱と使命感がうかがえる。いっぽうでは悠々長寿を楽しむがごとき風情の三氏に、仕事や人生、健康維持の秘訣などを聞いてみた。

好きな酒、タバコ今も=サンパウロ日伯援護協会会長・実業家 和井武一

 人さまに自慢できるような健康法など、何もありませんがー。
 この年になって、まだ酒もタバコもやっているくらいだから。ええ、酒は毎晩、ウィスキーをダブルで一、二杯。タバコは一日七本と決めてます。いまさら止めて長生きしてもー、いやもう十分長生きしてます。
 生まれは兵庫県宍粟郡波賀町、大正二(一九一三)年十月です。東京外国語学校(現東京外語大)を卒業したのが、大東亜戦争の始まる昭和十六年。修正資本主義論者の大河内正敏氏に惹かれ、同氏の率いる新興コンツェルンの理化学興業に入社。昭和十七年にフィリピンへ軍属として派遣されましてね。
 十九年には内地に戻りますが、やがて終戦。理化学興業は解体され、知人の経営する貿易会社勤務などを経て一九五二年、自由渡航者の資格で着伯しました。五五年にはサンパウロ市ラッパ区に「伯星貿易」(翌年ブラストレーラに社名変更)を創業させています。
 アルミや銅のインゴットとかベアリング、有刺鉄線などを輸入販売するこの会社には創立当初、ずいぶん苦労させられました。親戚知人もまったくいない、孤立無援の中でのスタートですから、資金繰りなんか並大抵のものでなかった。ついにノイローゼになってしまい、神経科医の世話になったくらいです。
 ここから学んだのは、信用こそもっとも大切な武器であるということだった。実業界では、金の払い方が信用の有無に直につながります。負債は、絶対にごまかしてはいけません。
 税金も然り。現在、ブラストレーラ社が納めなければいけない税金は実に十六種類もあるのですが、創立以来四十八年間、きっちり払ってきました。節税はしても脱税はまずい。このあたりでごまかしを行うと、陰険な相となって顔に出てしまうんですな。社の空気が悪くなり、ひいては社員の士気にも悪影響をおよぼします。
 余談だけど、企業の税負担つまり担税力は三〇~三五%あたりがせいぜい。ブラジルの現行税法では六五%もの重税となる。非常に厳しいものです。
 公職歴のほうですかー。兵庫県人会長は、一九七五年から六期十二年間務めました。文協役員、CIATE副理事長、救済会理事などにも就いていますが、長いのはやはり援協で丸二十年。亡くなった竹中会長夫人のお父上・畑中仙次郎氏(ブラ拓バストス移住地支配人)が外語大の先輩だった縁から援協のご奉公が始まったわけで、会長職も足掛け十年かなー。
 公職が増え始めたのは七〇年代中頃から。日本企業の進出が相次ぎブラストレーラも成長、安定期に入ったこと、息子たちのうち二人が補佐役として社の財務、営業面を支えてくれ出したことで時間的余裕がでてきたため。これで安心して援協のお手伝いもできるようになったのです。
 援協は企業でいえば、もう大企業なみの組織ですよ。職員が一千二百人おり、州内九ヵ所に病院、福祉施設などがある。残念なのは時間と体力が不足してしまい丹念に施設を回れないこと。「同志」に申し訳ないと思っています。
 職員や会員、援協事業への賛同者たちは志を同じくする、同志のような存在です。わたしとしては非常に連帯意識が強い。ですから会長だといっても、この人たちとは対等な関係だと思っているし常々、信頼している。自分も信頼されるため、少なくとも金銭問題などでは清廉潔白を自負しています。
 それから、健康法ですか。これといった健康法はないんだが週末は極力、好きなゴルフなどで歩くようにしている。十八ホールだから五、六キロかな、この年でもよく歩きますよ。一晩ぐっすり眠ると、翌朝は疲れもとれている。
 朝は七時起床。すぐ風呂に入り、午前九時には援協に「出勤」しています。午後から会社のほうで仕事し、帰宅は午後七時頃。就寝が午後九時すぎで、野菜をよく食べるように心がけています。とまあ、お勧めできるような健康法はないですよ、あんた。医者にいわせると「体力に恵まれている」ということになる。まあそう思って人生、くよくよせんことです。
 忘れていたが、会社で毎日数字(財務関係)をにらんでいるのも頭の健康にはいいかもしれませんな。

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