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在日外国人の総合研究=多文化社会への指針模索

1月6日(火)

 在日ブラジル人などを始めとするエスニック集団ごとの日本社会との関わり方をもとに、日本的多文化主義のあり方を模索する意欲作『多文化社会への道』(駒井洋監修・編著、明石書店、四千六百円)が〇三年十二月に刊行された。
 同書は『講座 グローバル化する日本と移民政策の課題』全六巻の最終刊として、結論的位置を占めるもの。外国人労働者や移民政策に関する研究を長年進めてきた駒井洋筑波大学教授が選んだ十四人の著者が、それぞれの専門分野を記述している。「本巻の課題に対して望みうる最高の執筆陣の協力を得ることができた」と駒井教授は「はじめに」で記している。
 第一部では「移民(在日外国人)と日本人が出会う場」として、激しい国際競争にさらされているIT企業、少子化によって存亡の危機に立たされている大学、学校、移民の信徒が殺到しているカトリック教会、モスク、日本語ボランティアネットワーク、日本のエスニック・メディアなどの章立てをし、日本人との接点で何が起きているかと、今後への展開について展望している。
 第二部では「エスニック集団ごとの日本社会への関わり」として、「中国人―日本社会と新華僑」、「ブラジル人―住み分けから共生へ」、「新韓国人―適応による潜在化と孤立」、「フィリピン人―内部からの貢献」、「欧米人―日本における複雑な立場」の章立ての中で、それぞれの人種(民族)ごとの現状分析と、そこから導き出される多文化社会への道筋が語られている。
 例えば、公立小中学校において多文化社会化を拒む要因として、第四章では山積する問題を抉り出す。そのハードルの一つは「同化を強いる組織風土」で、日本社会や文化の中にある「集団主義」「同調主義」「奪文化化」が学校内で行われていると指摘する。
 また、ブラジル人を扱った第十章では、他の外国人とは異なる日本人の血を引く日系人ならではの考察や、在日コミュニティの形成過程、移住二世世代が貴重な人材を生む可能性、日系四世世代が日本で合法就労できない現状などについて詳細に論じられている。
 駒井教授は、全体を総括する第一章で「多文化社会化へのもっとも根本的な問題点として、国際的にヒトをひきつける魅力が日本から失われつつあることを指摘したい。長引く景気低迷と産業の空洞化により、労働市場全般で就労の機会が減少しているばかりではない。高度な人材についても、日本を身かぎろうとする傾向が出現しかけている」と警告を発している。

 

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