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コラム 樹海

 暑い夏の夕暮れ。浴衣を着たご老人が縁台に腰掛けて思案顔に駒を動かす図はなかなかに風情があっていい。碁は公家や武士などの嗜みであり将棋は庶民の楽しみ。囲碁は平面の闘いで将棋は立体的な戦争。敵から取った駒を使って相手の「王将」を攻撃するし―「成り金」という規則もあって「歩」でも敵陣に入れば「金」に化ける▼こんな将棋もサンパウロでは愛好者が減っているらしい。協会ではポ語の入門書を発行したりと躍起になっているけれども、新しい指し手は現れないようだ。これも一世が少なくなった為だろうがいささかならず寂しい。もう二十年ほど前には大山康晴永世名人が来聖し指導将棋を打ったりもしたのに―である。「歩」を一つ動かすだけで盤上の変化は天文学的な数になるそうだから―将棋は恐くも楽しい▼そんな愛好家らの楽しみが「詰将棋」らしい。江戸の頃。名人になると「詰将棋」一〇〇題を将軍家に差し出すのが決まりだった。先に引退表明した米長邦雄氏は五十歳を超してから名人になる奇人ながら碁の打ち手でもある。この米長氏が江戸の宗看と看寿兄弟作の「詰将棋」に挑戦した。その第一問の六十九手詰を解くのに一週間も掛かった▼この兄弟の作品には何百手詰も続々だそうだが、最高は六百十一詰。こうなるとアマチュア三段や四段ほどの実力では難しすぎてきちんとした手数を踏んでの解答はちょっと無理なような気もする。さてどんなものだろうと思うのだが、「詰将棋」とは難しいものらしい。(遯)

04/02/19

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