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アイデンティティの危機=デカセギ子弟=日本語中心に育って

2月28日(土)

  日本語を中心に育ったデカセギ子弟の多くは、アイデンティティの危機に直面している。七日付けインターナショナル・プレス紙が報じている。
 ウィルソンさん(三七)とヒデコさん(三九)の息子で、日本の中学校に通うエメルソン・ヒデキ・デ・リマさん(一三)は、周りに日本人がいる時に両親とポ語で会話することを嫌う。自分がブラジル人だと見られることが嫌で、小さな時から、両親が学校の校門に近づくことを避け、ブラジル人の補助教員さえ無視していた時期があった。
 別世界に生きる息子を理解しようと、両親は模索する。ウィルソンさんは、「息子を日本に連れてきたことを、何度も後悔しました。ブラジル人学校に転校させることも考えました。だって、家庭内の会話はやっぱりポルトガル語の方が通じやすいですから」と考えていた。しかし、息子は日本の学校を気に入っており、転校させることは諦めた。夫婦は家庭内でポ語を軽視していたことを、今では後悔している。
 徐々に、親子の会話は息苦しいものになっていた。ポ語の弱い子どもと、日本語の弱い両親。「少ない語彙しかない会話に、お互いがうんざりしていた」。親子の会話を取り戻そうと、両親は日本語学校にも通い始めたが、仕事の時間の関係などから休みがちだ。
 先輩が後輩に命令するという学校の伝統を息子が適応できないのではないかと、父親は恐れていたが、実は息子は大して問題にしていないことに気が付いた。むしろ、自分が学校の約束を知らないために軽率な行動をしてしまった。「学校の行事の幾つかで、背広などの正装をしていかなくてはならなかったのに、作業着で行っていました」。
 ファチマ・コレイア・フコさん(四一)は、アイデンティティの問題は中学生時期にピークになると考える。家での会話はポルトガル語だが、「娘ケイチ(一四)の考え方は日本人少女とそっくり。十八歳になったら一人住まいし、日本人と同じように毎月少しずつ貯金して、日本の大学に入ろうと思ってます」と語る。母親がブラジル流のおおげさなジェスチャーや大きな声で喋るのを、娘は毛嫌いしており、外出時に手をつないで歩きたがらない。
 浜松在住のミイケ・ミホさんは、通訳を職業としており日本語を上手に話すが、思春期の娘は、恋愛問題を自分でなく他の日本女性に相談していたことを知った。母親に相談しない理由を尋ねた時、「微妙な問題を相談するのに、簡単な言葉を選んで会話するのは手間がかかるから嫌だ」と娘が答えた事にショックを受けた。
 「言葉が理解できることが、必ずしもお互いの気持ちの理解につながるわけではない」とミイケさんは強調する。「高校に入学してから、母娘の関係は少しよくなってきました」。親子の間にふさがる壁は、実は言葉だけの問題ではなく、微妙な気持ちの理解を前提とするアイデンティティ全体に関係するようだ。

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