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コラム 樹海

 フグは天下の珍味。赤絵の大皿に菊花のように盛り付けた薄作りの美味さもだがフグ鍋もなかなかにいい。が、この魚にはテトロドトキシンという猛毒がありこれまでに何百、何千もの人々を黄泉へと送った苦い経験がある。サンパウロにも来演し素踊りを披露した日本舞踊の名人・坂東三津五郎さんも、好物だったらしいフグを食べ急逝している▼俳人・松尾芭蕉は「あら何ともなきのふは過てふくと汁」と詠んだけれども、日本では古来から毒が命取りになることを生活体験を通じて知っていたらしい。江戸の庶民は「フグは食いたし命は惜しし」と言ったそうだが、長崎大学の研究によると「フグに毒はない」そうだ。最も消費が多いトラフグを実験魚として調査したところ、元々―フグに毒があるのではなく、フグ毒は海中の細菌が生み出し、プランクトンやカニ、マキガイなどを経てフグの体中に蓄積される▼養殖の網を海底から一〇メートル引き離して育てたトラフグ約五千匹を調べたところすべてが無毒だったと報告されている。一番猛毒があるとされてきた肝臓や卵巣でも大丈夫らしい。一匹のトラフグが持つ毒は三十人分の致死量に相当するとされ、日本ではフグの料理人は特別の資格が必要なほど難しく、政府はフグの肝臓を食べることを法律で禁止している▼それでも、好き者は死と引き換えに食用にし中毒死は後を絶たない。もし、長崎大学の研究が本物であれば、養殖物のトラフグを楽しみながらの一盞と参りたいのだが―。   (遯)

 04/5/18

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