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コロニア語調査 阪大が中間報告=2世語は踏み込んで分析中

6月8日(火)

 昨年四月にスザノ福博村で、同五月にアリアンサ移住地で行われた調査を含む、大阪大学とブラジルの言語学研究者との「コロニア語」共同調査の結果として、中間報告書がこのたび二冊発行された。日本語による『5・言語の接触と混交―日系ブラジル人の言語の諸相』と、ポ語中心の『大阪大学・大学院文学研究科紀要第44巻―2』だ。これは、コロニア語がどのような特徴をもった日本語なのかを明らかにする調査で、文化人類学、社会学などにより学際的に明らかにしようとする試みだ。同中間報告によれば、次のような傾向がみられるという。

《世代ごとの移り変わり》
 一世から三世へと世代が移り変わることで、日本語がどのように変化するかを示したのが図A。上の一世から下の三世に移るに従って、図の右側にあるように、複文・連文という複雑な構造をもつ日本語を使う世代から、単文しか使わない二世、単語のみの三世へと移り変わる。
 これはポ語の場合(図の破線の三角形)、鏡返しになる。三世のポ語能力は複文・連文、二世は単文、一世は単語しか使わない傾向につながる。
 図左にあるように、一世の時代には移住地まるごと、つまり地域で日本語が通用したが、二世の時代には家庭内だけ、三世の時代には祖父母と会話する時にだけ使う言葉になってしまう傾向がある。
 と同時に、図Bにあるように一世の時代には「書く」「読む」「話す」「聞く」の四拍子揃っていたが、二世では「書く」能力がなくなり、三世では「聞く」のみになってしまう。
 二世世代の特徴は、一世が地域丸ごと日本語環境だったのに比べ、家庭内での使用に限られることが多くなる点や、「話す」「聞く」能力へ日本語能力が限定化されること。また、一世がポ語を単語だけ借用することに限定されていたのに対し、会話の中でポ語の複雑な文章まるごと使い、ひんぱんに切り替える(コードスイッチング)ようになることなど。
 二世は「一世より」「三世より」「その中間の二世」の三モデルに分類でき、それをもたらす要因として、「言語形成期の言語が日本語だったかポ語だったか」「ブラジルにおける教育程度の高低」が絡んでいると推測している。
 同報告書は「基本的に、言語形成期の言語が日本語であり、高くない教育歴の二世は、日本語能力(聞き話す能力)が高く、言語形成期の言語としてポルトガル語が関わり、ブラジルでの教育歴の高い二世は、日本語能力は三世に近くなっている」と推測する。
 三世の特徴は、ポ語が母語となっている世代で、次の特徴があるとする。(1)祖父母がいる場合は、彼らとの会話において日本語を使用・習得している。(2)日本語の四技能のうち「聞く」が最後まで残っている。(3)ポ語会話が中心であり、文レベルでの日本語の借用は減り、単語レベルで折りこむ程度になる。(一世の会話に出てくるポ語が単語レベルなのと似ている)
 三世に関して、「現実には祖父母のいる家庭がなくなりつつあることから、一世における『国語としての日本語』でなく、言わば『外国語としての日本語』教育が必要な段階に至っていると言えよう」と結論している。
《コロニア日本語の特徴》
 ブラジル日系社会の一世、二世の日本語に特徴的な点は次の通り。
 (1)東日本方言的要素と西日本方言的要素の混在・併用。例えば会話の語尾が次のようなパターンとなる。イルとオル、~テルと~トル、~ナイ(~ナカッタ)と~ン(~ンカッタ)など。
 (2)西日本方言形式のコロニア共通語化(一世の東日本出身者でも普通に使用)。例えば、語尾がこうなる。~ヨル、ヨウ~セン、~シキランなど。
 (3)単純化。全ての動詞の五段活用化、ラ抜き可能形式や~シナイ(セン)デス形式の使用。男女差を示す諸形式の不使用。
 (4)類推による生成形式。例えば、「行カンキャナラン」(行かなければならない)のようなモダリティ形式の使用など。
 同報告書では、日本語の方言同士が影響を及ぼしあうのと同時進行で、ポ語からの影響を受けており、コロニア語を分析するには、それらの相互影響への考慮が必要としている。
 同報告書はあくまで中間報告であり、現在も分析作業が進められている。特に、二世のコロニア語に関しては様々な要素が関連していると推測され、より踏み込んだ分析が今後の課題となっているそう。関係者によれば、最終的な結論は、今年度を目途に一冊の本にまとめて出版される予定になっている。
 

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