ホーム | 日系社会ニュース | 漁の男、労働時間1日14時間=蟹採り漁船『第五十八金宝丸』=南リオ・グランデ沖で操業もう5年=乗組員は多国籍=33人中日本人6人

漁の男、労働時間1日14時間=蟹採り漁船『第五十八金宝丸』=南リオ・グランデ沖で操業もう5年=乗組員は多国籍=33人中日本人6人

6月15日(火)

 ブラジルで日系唯一の蟹採り漁船、「第五十八金宝丸」(三百六十トン)がリオ・グランデ・ド・スル州の沖合三百~四百キロで操業中だ。グアルジャ市に進出、本拠を置いて五年。マルハ本社から派遣され、缶詰用のマルズワイガニを冷凍輸出している。漁獲量が収入と直結するため、一日の労働時間が十四時間以上になることもある。日本人乗組員は完全な単身赴任。年に一度しか日本の家族には会えない。厳しい環境に生きる海の男に話しを聞いてみた。
 「かつて、日本の漁業会社がブラジルに進出していましたけど、(蟹をとっているのは)今はうちだけですかね」
 漁労長の森茂四さん(62、岩手県出身)は、海外で漁をすることの難しさを指摘する。
 金宝丸はもともと、アフリカ・ナミビア沖で漁をしていた。会社の方針で、ブラジルに移った。
 乗組員は三十三人。もともと、日本人だけで編成されていた。人件費の削減で現地人を雇用するようになった。今は、ナミビア、アンゴラ、インドネシア、ブラジルと国籍も言葉も違う人たちで構成されている。 日本人乗組員は六人(岩手県四人、宮城県一人、長崎県一人)。船長、機関長、通信士などいずれも幹部クラス。船内での仕事を仕切るのが、漁労長の役割だ。
 一回の漁はおよそ七十五日続く。漁獲量に比例して、給与も増えるため、日本人は不眠不休で働くという。森さんは「一日に十二トン獲ったこともある」と誇らしげだ。
 現地人には、日本的な考え方は通用せず、八時間たてば、デッキから引き揚げてしまう。そもそも、男だけの船内生活に耐え切れず、「出港して三日後に、陸に戻りたいと懇願する従業員も現われることも」。
 そんな時は、漁場から最寄りの港に入って、船員を下ろすことになる。「寝室で休息を許しても、ほかのものに示しがつかない」。ロスを覚悟で漁場を一旦、後にするのだ。
 「今は、一日に四トンというのが、いいところかな」。森さんは多国籍の人間を操ることの難しさを痛感している。意志伝達手段は、もっぱら、身振り手まねだ。
 実家は農家だった。後を継ぐのが嫌で、水産学校に通い、漁師になる道を選んだ。マグロ船に乗り込んで、海外に出始めたのが六一年。四〇年近くも遠洋漁業に携わってきた。
 定年は五十五歳だが、人材不足で、六十五歳まで嘱託という形で、会社に留まることになっている。「家のことは妻に任せっきりで、苦労をかけていますから。退職したら、二人でのんびり土いじりを楽しみたい」 
 今年の長期休暇は九月の予定で、家族に会える日が近い。それまでに、もう一回、海に出る。
 

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