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トヨタ デカセギ子弟集め整備士養成=技術4道徳6しつけ重視=中整校、就職の斡旋も

6月17日(木)

 デカセギ子弟を集めて、愛知県春日町にある自社直営の整備士専門学校で訓練し、帰伯後は自社や関連会社に優先的に就職を斡旋する。そんな先進的な取組みをトヨタ自動車が始めている。このブラジル・コースにはブラジルから教師が派遣され、ポ語教材、ポ語授業が実践されており、日本では特異な存在だ。デカセギ子弟の非行・犯罪増加が日伯の新聞紙上を騒がせ、両国が頭を痛めている問題だけに、それへの社会貢献としての意義は大きい。このような取組みが他企業にも広がることが期待されている。

 これは愛知県春日町にある学校法人「中部日本自動車整備専門学校」で、通称は「中整校」だ。一九六一年の創立で「日本一の規模と実績を誇る直営校」として有名だ。
 九九年からブラジル・コースが設置され、約二十数人のデカセギ子弟が一年間ずつ自動車整備技術を学んでいる。ブラジル・トヨタから派遣された教師により、ポ語教材を使い、授業は全てポ語で行われる特異なコースだ。授業料は年間約百万円と安くはないが、日本人の普通コース(二年間)なら年間約二百万円が必要だ。その差額はトヨタが補填している。
 学費を半額負担してまでコースを設けたのは、ブラジル政府からの要請があったからだ。デカセギ子弟が日本の公立学校から落ちこぼれて不登校になったり、非行に走ったりする現状を憂いたブラジル政府は、在東京ブラジル大使館を通してトヨタ本社に対策を依頼し、同社では直営校にブラジル・コースを設ける決断をした経緯がある。
 九九年入学の第一期生、大石ダニエルさん(26、三世)は〇〇年八月に卒業、翌九月に帰伯、十月にはブラジル・トヨタ(岡部裕之社長)に就職した。サンベルナルド・ド・カンポ工場にあるテクニカル・サポーター室に勤務し、将来を嘱望されている。
 九三年に家族五人で愛知県豊橋市に行ったダニエルさんは当時、十五歳だった。トヨタ系列の工場で派遣会社を通して働き始めたが、六年間たって「やっぱりブラジルに帰りたい」という気持ちが強くなり、そのためには手に職を付けてと考え入学試験を受けた。
 学校生活で一番印象に残ったのはと問うと、「帽子をかぶったまま教室に入ったら、先生に『出ろ、帽子を取って入り直せ』と怒られたことです」と答えた。同校で教師を一年間勤めた経験もある、ブラジル・トヨタの教育グループの宮川誠司係長(42)は「中整校では技術4道徳6の割合で、しつけを重視しています」と説明する。
 職員室に入る時は、「失礼します!」と頭を下げないと入室できないという厳しい校風だ。
 昨年八月に卒業し、今年二月に帰伯してから系列ディーラーに就職した広岡カルロスさん(20)も「厳しかったけど、とても楽しかった」と振り返る。
 ダニエルさんは昨年からFEI大学に入学し、機械技術を学んで専門知識を深めている。宮川係長は「中整校で鍛えられて、仕事プラス勉強もしたい、という気持ちに切り替わったんでしょう」と高く評価する。
 現在までに同卒業生の中で、ブラジル・トヨタには四人、系列ディーラーへは三十二人が就職している。一人はスペインへ行き、やはり系列ディーラーに勤めている。さらにブラジルの日産やフィアットなど同業他社に入った卒業生もいる。高い失業率が喧伝される一般世間とは異なり、彼らは引っ張りだこの状況だ。
 日本の大企業の多くは子・孫会社などで、派遣会社を通じてデカセギを雇用しているが、「必要な時だけ使って、後はポイ」というのが実情だ。彼らに技術を教えることは稀だ。
 その中で、トヨタが始めた取組みは特筆に価する。「それ以上にデカセギに世話になっているから当然」という声もあるが、「世話になっても何もしないのが当たり前」の風潮の中では異彩を放つ。産業界からの働きかけで入管法が改正されデカセギ・ブームが始まったことを思えば、産業界が現状を打破する取組みをするのは、当然のこととも言えそうだ。
 青少年育成にも関係するだけに、この種の取組みは本来、地方や国の役割でもある。一企業が日伯両国への社会貢献のために責任を果たす。このような取組みが、さらに広がることが切に期待されている。
 

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