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「俳句」「短歌」よその国の事情(1)=自由な集まりの中、自由な俳句を楽しむ=ニューヨークの俳句会

6月29日(火)

  海外日系新聞放送協会は、今年、恒例の共同企画として「世界各地の俳句・短歌事情」を取り上げた。OCS NEWS(米国、ニューヨーク)、バンクーバー新報(カナダ、バンクーバー)、ボイスメール(タイ、バンコク)、北米報知(米国、シアトル)、羅府新報(米国、ロサンゼルス)、らぷらた報知(アルゼンチン、ブエノスアイレス)、日米タイムス(米国,サンフランシスコ)、日加タイムス(カナダ、モントリオール)、それに本紙が企画に参加した。八回にわたり連載、八都市の事情を紹介する。

 ニューヨーク及びその周辺において、現在も続いている句会の中で最も歴史が
古く中心的存在なのは「方舟」である。俳句・短歌同人誌「方舟(はこぶね)」の創刊は一九六八年で、今年三十六年目を迎える。現在も月一回の句会が開かれ、「方舟」は夏の七、八月合併号を除き毎月発行される。現在のメンバーは二十~二十七人くらい。帰国したり違う土地に行っても投稿している人も多い。句会は会員の自宅で行うが、春や秋にはセントラルパークなどへ吟行に出かける。
 前身は一九六四年頃に四、五人が集まり始めたとされる「NY俳句会」。七七年頃に、現在の編集長である木村丹乙(玲二)さんらが中心となり、NY俳句会「方舟」となった。作品は「ニューヨーク日米新聞」や「0CSニュース」にも掲載されていた。
 「方舟」はNY州の文化非営利団体として認可を受け活動を続けた。帰国などで人数が減り七、八人になったこともあるが、俳人でもあった江國滋(故人)さんが講談社の雑誌「太陽」に執筆するために特別句会を開いたり、NHKテレビがセントラルパークでの吟行を取り上げたりしたこともある。
 「方舟は、有季定型を基礎とした同人個々の自由な表現による俳句または短歌発表の場としての通信投句による月刊誌です」と編集長の木村さん。木村さんは今年七十八歳、一九五八年からNY在住のアーティスト(画家・彫刻家)である。
 「アバンギャルドから伝統的な人まで、人の俳句に干渉はせず、いいものはいいという姿勢です。お互いの美点を認め合っているのが方舟です。師系も指導者も持ちません。特に添削を希望する人以外は、原則としてそのまま掲載しています。私は下足番です」と木村さんは語る。
 個性の強そうな人が集まりそうなNYで長く活動が続いているのは、そのあたりに秘密があるのかも知れない。目下の課題はNY歳時記を作ること。NYの四季は日本とは違うため、NYの季語集を編さんしたいそうだ。
 「方舟」は俳句・短歌同人誌とうたっている通り短歌も掲載している。一九七七年に中西泰子さんらが中心となり「方舟」から独立する形で「合歓(ねむ)」という短歌の会を作り十年ほど活動したこともあるが「方舟」に再び吸収された形になった。
 「俳句ほどされる方がいらっしゃらないようですね」と、在米三十五年となる中西さんはやや残念そうだ。
 最近新しい句会ができた。日本の同人誌「百鳥」(大串章主宰、鎌ヶ谷市)に、NYと日本を行き来しながら投稿していた元日経アメリカ社社長の小池康夫さんと、九七年に知人の紹介で入会し投稿していた江坂衣代さんが中心となり二年前に始めた「NY句会」である。月一回句会を開き、会報も出している。さる五月二十二日にはNYを訪れた「百鳥」の会員八人ほどとセントラルパークで吟行した。しかし同句会は「百鳥」の支部ではない。「方舟」の木村さん同様、「ニューヨークは自由な集まりが合うんですよ」と小池さんも言う。
 「俳句は誰でも参加できる座の文化。一人でやるより皆で集まって、楽しくやれる。まさしく和を大事にした日本の文化。英語俳句も人気で、カラオケ同様ハイクが国際語になっています。広がりがあり大変面白い」と語る小池さんは、「方舟」との交流も考えている。

■「俳句」「短歌」よその国の事情(1)=自由な集まりの中、自由な俳句を楽しむ=ニューヨークの俳句会
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