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先端走る東京の闇描く=「ハムレットクローン」劇作・演出の川村毅=混乱の時代 生き方問い

7月21日(水)

  現代の東京を舞台にハムレットに憧れる失業サラリーマンを主人公とした演劇「ハムレットクローン」が二十一日、サンパウロ市のSESCヴィラ・マリアーナで上演される。シェイクスピアの悲劇を放胆に翻案した物語には、ビデオ映像、音楽、ダンスとさまざまな表現が駆使されエンターテイメント色が加わる。出演するのは、枠にとらわれない異色の俳優、ダンサーが集まった「ティーファクトリー」のメンバー十三人。劇作・演出の川村毅(たけし)は、「資本主義、自由経済の最先端をいく東京の複雑な現実を描きたかった」と語る。
 主人公はリストラされたホームレス。ハムレットになりたいと願い、大都会をさまよっている。その憧れの相手ハムレットは老いて現代に生き延びており、劇中、自分の半生を回想し始める。物語はこの二つの虚構を柱に進行。東京の風俗的現況がペシミスティックに織り交ぜられる。登場する役者はセーラー服姿の女子高生や、囚人のような人物に扮し、檻の中に閉じ込められたりしている。
 十九日にサンパウロ市内で開かれた記者会見で川村は、旧東独の劇作家ハイナー・ミュラーの言葉を挙げ、二十一世紀のいま、この古典悲劇に着眼した訳を説明した。
 〈時代が混乱したときには、『ハムレット』の上演が有効だ〉
 ミュラー自身も七七年、東西冷戦下に戯曲「ハムレットマシーン」を書き上げ、ベルリンの壁崩壊前後にも再上演を企図している。シェイクスピアの原作を解体した「現代」のドラマ。同作でみられた前衛的な手法が、川村作品の下敷きにはある。
 生きるべきか、死ぬべきかのセリフで有名な「ハムレット」。四百年前の戯曲が日本で流行中だという。演出家が競って手掛ける。
 「それはシェイクスピア自体の人気もあるが、テロ、戦争といった混乱の時代の反映ではないか」と川村は分析する。
 八〇年に劇団「第三エロチカ」を創立。「ニッポン・ウォーズ」で注目を集め、八五年には「新宿八犬伝 第一巻―犬の誕生―」が劇作家の登竜門、岸田国士戯曲賞を受賞。鋭く自由な作風と、刺激に満ちた舞台で知られ、これまで三十作以上を発表してきた。海外での仕事も多い。
 時代ごとに演出スタイルに変化がみられるが、拠って立つところはいつも東京だ。「複雑な都市で日本人がどうやって生きてくか、日本人とは何か」を追い求める、その軸はぶれない。
 「進んでいる都市だからこそ、病の面も他国で考えられないものが起こる。問題でも先端をいっている。白昼の路上での犯罪事件や、女子高生の売春とか」
 サン・ジョゼ・ド・リオ・プレット市で開催されていた国際演劇祭で、十六日から十九日まで三日連続で公演した。欧米、東欧での経験は豊富だが、南米は初めて。「観客の反応が気になって過去数年のうち一番緊張した。でも、反応するところは万国共通。セリフは日本語だが、『感じてくれた』と思う」
 期間中、ブラジル前衛演劇界の重鎮であるゼ・セルソに会った。作品を観てくれたという。「きみのハートはよく分かるよ」。きつく抱きしめられ、頬にキスされた。「うれしかったですねぇ」。
 五九年、東京生まれ。〇二年より京都造形芸術大学助教授。
 午後九時から。一般十五レアル。Rua Pelotas 141。問い合わせ先SESCヴィラ・マリアーナ(5080・3000)。

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