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「能面の奥深さ堪能して」=日本文化センターで40点展覧=制作者の久保田さん

9月1日(水)

 【既報関連】能に使われる面四十点を展示する展覧会が二日から、サンパウロ市の国際交流基金サンパウロ日本文化センターである。制作者の久保田敏勝さん(号・松仙)は五五年からの十五年間、ブラジルに滞在。帰国後、北海道函館市で能面打ちの世界に入り、七年前に師範免許を得たが、「まだまだ勉強中。生徒と一緒に学んでいる段階」と謙虚に語る。
 能舞台に登場する面は、一般に二百種とも言われる。久保田さんがこれまで手掛けた数は七十前後。「一つ作るのに三、四ヵ月は要しますからねぇ」。中でも最も難しいとされるのが小面(こおもて)。十四、五歳の女性の面だ。
 能面はすべて人間の顔に倣って、微妙に左右非対称に制作する。向かって左側を陽、右側を陰とするのが基本。「例えば役者は、悲しみを表現するときには顔の左を手で隠します」。面にはすべての喜怒哀楽が折り畳まれているという。
 今展には色々な家元の能面を陳列。同じ役割を担う面でも各派で表情は異なる。「こうしてさまざまな能面が並んだ展示を、鑑賞できる機会は日本でも少ないはず」と力を込める。
 コロニアの全盛期、スザノ市やアルモニア学園で日本語教師をしていた。日本ではパイプ作りに従事していた腕前で、「文協工芸展に彫刻を出品して入賞したこともある」と久保田さん。七〇年に帰国してからは一家で函館へ。偶然目を留めた師匠の能面展に感動、門下生となった時はすでに齢四十代後半だった。
 八九年、ブラジル旅行の際、文協で二十点を展示した。「学校の教え子にプレゼントしようと思って持ってきた作品で、とても飾れるような出来でなかったのですが……」
 現在は自宅で教えるほか、地元北海道新聞社の文化センターでも講師を務めている。生徒の多くは年配者。「一年に一個出来るか出来ないかのペースで指導している」。素人だとそれほど完成までの作業に手間隙が掛かる。
 「とにかく奥の深い世界。わたしの師匠はもう四十年以上も面を打ち、何百個と作っていますが、気に入ったものは二、三しかないが口癖です」
 加えて、ただ師範として面を作っているだけでは「能面師」にはなれないという。役者がその面を舞台で使用して初めて「能面師」の称号を得る。
 「もう九十歳になる師匠でもまだですから」。
 展覧会のオープニングはきょう一日午後七時から。能楽のビデオが鑑賞できるほか、日本文化研究者のダルシィ・クサノさんの講演もある。二、三、六、九、十の各日は正午から午後七時まで。四日午後三時からは、能楽を現代ダンスに活かした舞踏作品の発表(アンジェラ・ナガイさん制作、出演)が予定される。
 パウリスタ通り37、2階。

 

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